錬金

時として憎しみが歴史を作る

1988年にタイムスリップした俺の前に現れたのは、2017年の由里子。歴史の因果がゆがんだ結果として、この世界から由里子の存在は丸ごと消えてしまったはずだった。俺は彼女の存在を取り戻すためにまだ何もしていない。それなのに由里子は現れた。嬉しいけど、どういうこと? 由里子の口から明かされた秘密に愕然とした。俺はまたしても堀井健史に嵌められたのだ。
ホリエモンが贈る、感動のタイムスリップ青春小説!話題沸騰の書籍『錬金』を特別掲載いたします。

ゴーストタウン

 由里子に連れられて、タクシーで向かった先は埋め立て地だった。

 ところどころに草が生えているだけの、殺風景な荒れ地が広がっている。

 そこは臨海副都心、レインボータウンとして開発される直前のお台場だった。

 辺りを見渡して、俺は呟いた。

「……何にもないな」

 大きな建物は、船の科学館があるぐらい。倉庫がぽつぽつと並び、大きなビルの土台が建設中だった。

 遠くに、水平線が見える。流れてくる風は、かすかに潮の匂いがした。

 由里子が風になびく髪を、手で梳きながら言った。

「お台場は、こんな寂しいところだったのね」

「臨海副都心の本格的な開発が始まるのは1989年から。1997年にヤマトテレビが移転されるまでは、ただの海の上の平野だったんだ」

 俺と由里子以外、ほとんど人通りはなかった。

 言い方は悪いが、ゴーストタウンだ。

 やがてアジアの観光客が大挙して押し寄せる、巨大なレジャースポットに変貌する未来が、信じられなかった。

 俺は訊いた。

「どうして、ここに来ようって?」

 由里子は、ゆりかもめが着工されるあたりの更地を指さして言った。

「ヤマトテレビが建つ前の場所を、見たかったの」

 そこは元気のない草が生えている、広いだけの野原だ。

 その上部に数年後、日本最大のメディア企業が、本社を建設する。

「父がしがみついた、権力の象徴……お兄ちゃんの人生を狂わせた会社が、始まる前の景色を見てみたかった。想像してた通り、つまんないね。何にもない」

 そう言う由里子の横顔は、ひどく哀しげだった。

「いまこうしてる瞬間、都内のどこかに赤ちゃんの私がいる、っていうのは不思議な気持ちだわ」

 由里子が感傷的になっているところ悪いが、こんな寂れた場所でデートするのが、俺の目的ではない。

「そろそろ話してくれないか。ぜんぶ」

 由里子はちょっと伏し目になって、俺に顔を向けた。

「優作は、またお兄ちゃんに騙されたのよ」

「……え?」

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堀江貴文
徳間書店
2017-02-21

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錬金

堀江貴文

PC市場で世界の頂点に君臨しつつあった日本は、あと一歩のところでなぜアメリカに後れを取ったのか? IT革命前夜、世界を変えた常識破りのカリスマたちの痛快な、失敗と成功――。その全真相をノベライズ。 「心が自由になれば、金も権力も...もっと読む

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