「ミッションその① その気持ちを素直に伝えること。はい、今すぐLINE打って」
「え、今ですか?!」
「うん。だって今打ってくれないと、私が添削できないし。あのね、ここ1年のLINEさっき遡ってみたけど、好きを隠しすぎだよ。気持ちを伝えてなさすぎ。そんなの、可愛くないから。可愛くない女なんて、恋人にする醍醐味ないから」
「……!」
「男の人は、可愛いと思った女のことを、もっと可愛がるために彼氏になるんだから。可愛がれる女じゃないと彼氏になる意味ないから」
「……!」
「でもね、本当はちゃんと、可愛いこと思ってるわけでしょ。可愛い気持ち自体は、いっぱい持ってるんだから、ちゃんとそれを、拓海くんに対してお披露目しないと。宝の持ち腐れだからね今まで。もったいないよ」
「もったいない……」
「うん。だから、LINE打って。それで送る前に見せて」
「わかりました、ハナコさん」
いつの間にか、江梨子は目の前の女の人を「この人」ではなく、ハナコさんとして慕い始めていた。
素直にこの気持ちを伝えるだなんて、これまでの江梨子にはなかった文化だった。自分の中の弱気やシャイや照れ屋や意気地なしやカッコつけ達と戦いながらも、なんとか、折り合いがつくレベルでLINEを打ってみる。
「ハナコさん、これで……。どうでしょうか……」
[そっかー残念。会いたかったな。]
「ちょっと直していい? 大丈夫、まだ送らないから♡」
「あ、はい……お願いします」
スマホを渡すと、ハナコはニコニコしながら楽しそうに編集を始めた。可愛い。
「これでどう?」
[そっかー(;;)今日会えないの寂しすぎる>_< またすぐ会える時見つけたら教えてね!すぐね!]
見せてくれた文章は、江梨子が作ったものより断然可愛くなっているし、江梨子には到底思いつかない表現だった。でも、不思議と全く違和感のないものだった。それに、これは純粋に江梨子の本音だった。これなら送れる。
「どう? どう? これなら送れる?」
ワクワクした顔つきで、ハナコが訊いてくる。楽しそうな人だ。
「あ、はい。これなら送れるし、なんか、すごいです……」
「この顔文字使いなら、江梨子ちゃんの、セーフラインでしょー? さっきLINE全部見たから、江梨子ちゃんの価値観と人となりを考えて、無理のない範囲で書いてみたから♡」
なるほど、これは私仕様なのか、だからこんなにしっくり来るんだ。
ハナコさん、すごい……! 江梨子は感心し、絶句した。
「これで送ります……!」
「うん! で、次ね! ミッションその②! 次に会えたら『好き』って言うこと」
「告白ですか……?!」
「ううん。会うときって、いつも、そのままホテル行って抱かれる、以上、っていうパターンなんだよね? だとするとー、うん、その最中に、好きって言ってみて」
「!」
「思ってないの? 抱かれながら、好きだって思ってる瞬間、ないの?」
「あります」
「そこ」
「なるほど」
「思い浮かんでる好きを、声に出すだけ」
「はい」
「うん。そのタイミングであれば、告白みたいな空気にはならないから大丈夫。安心して、声に出しておいで」
「は、はい」
「ミッションその③! 会った後に、会えて嬉しかったこと、今日も好きがスクスク育ったことを、LINEで送ること」
「!」
「だって、そうなんでしょ? 会った分だけ好きが育ってるから、今日もまだこんなに好きなんでしょ?」
「はい……でも……そんなこと伝えちゃうと、返信こわい……、なんて返ってくるんだろう」
「江梨子ちゃん。片想いの人が、両思いを目指して頑張る時期には、鉄則があります」
「はい」
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