錬金

世界を一変させる究極のOS

1988年にタイムスリップした俺は堀井少年と向き合い、オペレーティングシステム・UNIXとそのクローンについて詳細な解説をほどこした。思えば、この20年後、ネクサスドアの社長である俺は彼に嵌められて刑務所送りになるのだ。すごく複雑な気持ちだけど、成長した堀井少年が事業の成功を収めなくては歴史が変わってしまう。歴史が変われば由里子を永遠に取り戻せなくなる――。
ホリエモンが贈る、感動のタイムスリップ青春小説!話題沸騰の書籍『錬金』を特別掲載いたします。

すべてはUNIXから始まった

 俺は話を続けた。

「堀井。今から言う話は、ほとんど妄想の話だ。

 UNIXの開発は1969年。アメリカの通信会社、AT&Tのベル研究所が生みの親だ。UNIXは性能が良く、長くビジネスコンピューターのスタンダードOSになっている。しかし君の言ったとおり、ライセンス料が高い。ハイエンドのマシンでしか動かない難点がある。

 アメリカ人プログラマーのリチャード・ストールマンを知ってるか? 彼は1980年代の半ば、つい最近だな。『GNU=GNU’s not UNIX』の開発に乗り出す。簡単に言うとUNIXのクローンだ。

 ストールマンは苦心のすえ、1990年辺りまでにほとんどすべてのUNIXを、クローンにリライトした。しかし汎用に移行するには問題があった。カーネルが欠けていたんだ。

 カーネルはOSの核心部だ。ハードウェアにアクセスして、キーボードやマウスなどから入ってくる外部情報を、ソフトウェアが理解できるように翻訳する役目がある。カーネルがないと、GNUはほとんど使いようがない。

 そして1990年代初頭。フィンランド人の若きプログラマー、リーナス・トーヴァルズが『無料で全世界の人が使えるOSをつくる』と発表。その後、トーヴァルズは独自にカーネルを書き上げ、GNUのUNIXクローンとほぼ同じ思想で、彼のUNIXクローンを完成させた。

 それが『Linux』だ。

 Linuxは、オープンソースOSの決定版になった。

 1990年代半ばに起きるインターネット革命に乗って、急速に全世界に拡まった。ウェブサーバーの7割程はLinux OSの環境下で動くようになった。

 マクロソフトはLinuxを商売敵として排除しようとしたが、オープンソースで、ユーザーが目的に合わせて仕様を調整できて、そのソースコードをシェアできる利便性には敵わなかった。結局マクロソフトは、インターネット上に情報を管理する、クラウドというサービスにLinux OSを採り入れざるを得なくなる。

 しばらくLinux OSは世界のコンピューター企業のシステムの基幹部分を支えてきたが、個人向けのデバイスには、それほど浸透していなかった。

 しかし2008年。グーグルが世界初のAndroid携帯電話を発表する。スマートフォンと呼ばれる、そのデバイスの基本OSに、Linuxは搭載されたんだ」

「スマートフォン……?」

 堀井は、不思議そうに首をひねった。

「そう。タッチスクリーンで操作する、小型の携帯電話だ」

 俺は成田の使っているパソコンの横に転がっていた、暇つぶし用のトランプを取った。

 カードの束を手に持ち、堀井の前に見せる。

「サイズはこれよりちょっと大きいぐらい。こうやって画面をスライドして、目的の情報を表示させる」

 と言って、トランプのカードを指で1枚ずつ、飛ばしていった。

 ダイヤの7、ハートの5、クローバーの13……。

「そして」

 スペードの1で指先を止め、ポンとタッチしてから、カードをめくり、堀井の前に出した。

「指でタッチすると、画面のなかの欲しい情報に、アクセスできる」

 堀井は黙ったまま、瞬きもせずに俺の話を聞いていた。

 深く、じっくりと何かを考えているようだ。

「……画面をタッチスライドして操作する、ハンディパソコンみたいなものでしょうか?」

「正解。インターネットを使う、デジタルデバイスの決定版だ」

 俺はトランプのカードを、ゆっくり切りながら言った。

「約30年後、先進国の約半分から7割の人口が、スマートフォンを持つことになる。スマートフォンで見られるコンテンツの質は急スピードで上がり、テレビやラジオは廃れ、紙媒体も減っていく。出会いの場も提供してくれる。情報を得るとか、コミュニケーションするとか、生活に必要な作業は、ほぼ全部スマートフォンに集約されるんだ。

 Linux OSは他にもディスプレイ、電子での出版物のリーダー、小型ヘリコプターなど、あらゆる機器の制御システムに使われる。家電製品やナビゲーションシステムなどにもLinuxは欠かせない。

 近い将来、開発されるだろう自律走行自動車や、人間の代わりに仕事をする、AIを搭載したマシンも、ほとんどLinuxのもとで動くはずだ」

 堀井は、口を結んだまま、黙って聞いていた。目は真剣そのものだった。

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この連載について

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錬金

堀江貴文

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コメント

HHIKARI7 1980年代、自分が生まれた年代にこんな話を聞かされたら、ドラえもんの設定だと思うだろうな。そう考えるとスゴい時代にいるな、オレ。 2年以上前 replyretweetfavorite