なんで私は彼の本命になれないの?

「恋愛がうまくいかない」「仕事で成果が出ない」「自分に自信がない」など、あらゆる悩みを王生際ハナコが解決します! 占いでも、カウンセリングでもない、「人生の作戦会議」とは? cakes人気連載「下田美咲の口説き方」で話題の下田美咲さんによる、あなたの人生が変わるかもしれない小説をお届けします。ケース1は「好きな男性の本命になれない」という江梨子(28歳)のお悩みです。


「あなたの人生の作戦会議をします」

拓海との待ち合わせに愛用しているカフェの一角に、その張り紙が貼り出されるようになったのは3ヶ月ほど前のことだ。なんだろうこれ。作戦会議? 占いやカウンセリングの類いだろうか? 目に入るたび、ぼんやりと考える。今日だけで、このことについて考えるのは5度目だ。

江梨子がカフェについてから、かれこれ1時間が経過していた。拓海と会うのは1ヶ月ぶりで、これは拓海との待ち合わせ、いや、厳密には、拓海をスタンバイしている状態だ。

連絡がくるのはいつも突然で、集合時間は、いつもぼやけている。「終わり次第むかうから、いつもの所で待ってて」と。いつも合間なのだ。用事と用事の合間、ちょっと空いてしまったような時間にしか、拓海は自分と会う予定を立てない。

休みの日であれば、きっかり13時などからの待ち合わせができるのだろうし、彼女とはそうしているのだろうが、所詮、本命ではない自分には、ちゃんとした待ち合わせができるような休日は充てがわれないのだ。

拓海とは街コンで知り合った。どちらかと言えば、彼の方が先に自分に目を付けた感じだったし、連絡先を訊いてきたのも、一度目のデートに誘ってきたのも彼の方だったから、このまま当然のように彼女になれるものだと思って、告白されるのを待っていた。

一度目のデートの時、正直に言えば、江梨子はもうかなり拓海に惹かれていた。そもそも顔が好みだったし、何の話をしていてもコメントに優しさがあるところや、お酒の飲み方が綺麗なところ、煙草を吸うけれど煙の導線には配慮している様子があるところなど、ちょっとした所作のひとつひとつに育ちの良さが出ていた。どこに出しても恥ずかしくない彼氏としての姿と、近い将来、そんな彼の横で大切にされている自分の姿が目に浮かんだ。

あの日の帰り際、拓海は「どうしようか、この後」と訊いてきた。23時半くらいだった。本音は、この楽しい時間が延長されたらいいなぁと思っていたし、まだ一緒にいたかったけれど、この人の彼女になりたい気持ちが育ち始めている今、彼女にするに相応しい女の対応をするべきだ、きっと。そう思った。

今からでは、どこへ行くにせよ、終電は確実に逃してしまう。一度目のデートで、まだ付き合ってもいないのに、簡単に終電を逃す女。ここで帰らなかったら、彼の目にはそう映ることになるだろう。それでは都合のいい女にされかねない。私は、彼女になりたいのだ。

「あー……うん、今日は帰ろうかな」

そう言うと拓海は「明日仕事? 早いの?」と訊いてきた。「ううん、そうじゃないけど。終電なくなっちゃうから、帰らなきゃ」そう答えると「そっか、じゃあ駅まで送るね。何線?」と訊いてくれて、紳士で素敵、早くこの人の彼女になりたい、と思い、今ここで「僕と付き合ってください」の一言を口にしてくれたら、私は今日帰らなくてもいいんだけどな、と後ろ髪をひかれながら、江梨子は改札を抜けた。

早く次のデートの日を決めたい、と思いながら家路に着き、拓海からの連絡を待っていたけれど、翌朝になっても何も来ていなかった。ソワソワしながら仕事をこなして夜になったけれど、やっぱり何も届いていなかったので、しびれを切らして自分から送った。

「昨日はありがとう! ごちそうさまでした」

連絡が返ってきたのは、翌日の夜になってからで「無事に帰れたようで、良かったよー! こちらこそありがとねー!」という一言だけだった。

あれ? 次のデートを取り決める流れは? と思ったけれど、拓海からのメッセージはそれで全部だった。

街コンの日から一度目のデートの日までは毎日何かしらやり取りしていたのに、連絡が途絶えてしまった。数日おきに、何かしらの口実を作って連絡を再開させるようにしたけれど(この前話してたあの曲のタイトルって何だっけ?とか、美味しいって言ってたの何てお店だっけ?とか)こちらからメッセージを送れば反応はあったけれど、やりとりをしていて、盛り上がる感じはなかった。

なぜだろう? 顔が見えないから、飲みながら話していた時の彼と温度差を感じるのだろうか? 会えば、このモヤモヤは晴れるだろうか? なんとかして、次のデートにごぎつけたい……そう思って、そこからは結構がむしゃらになって誘った。

ようやく2度目のデートができたのは、それから1ヶ月近く経った頃だった。「今日急に予定が空いたのだけど、この後、時間あったりしない? 飲まない?」と江梨子が送ったら「この後だったらいいよ」と返ってきて、やっと会えたのだ。そしてその日に、江梨子は拓海と寝た。

寝た後も、やっぱり告白はされなくて、メッセージのやりとりが盛り上がらないのも変わらなくて、だけど時々、急に「今日、会える?」と連絡をくれるようにはなって、かれこれ1年くらい、江梨子の人生には拓海がいる。

今日も江梨子は拓海から「仕事終わりに会う?」と急に誘われたのだった。

「ていうか、拓海、いつくるんだろう」

手元に視線を落とすと、スマホが短く震えて液晶が光った。

「ごめん、今日、仕事まだだいぶかかるやー。また今度にしよう」

え、ドタキャン……。もうすぐ会えると思っていた時の会えないダメージを、この人は、知らないのだろうか。嘘でしょ、勘弁してよ、1ヶ月ぶりなのに、急に会えることになったから、さっきわざわざ薬局で安全カミソリ買って最低限のムダ毛処理をしたのに。何コレ。すごく無駄。家に帰れば別にシェイバーなんてあるのに、拓海がいっつも急に連絡してくるせいで、こんな無駄な買い物までして、焦りながら身支度しているのに。何なの。すごく虚しい。

私って何なんだろう。本命だったら、前の日の夜にゆっくり、ちゃんとソープを泡立てて滑りを良くして、リラックスした気持ちでムダ毛の処理だってできるし、万全な私で会えるのに。虚しい……。

江梨子は今にも泣き出しそうだった。が、実際に泣くには、あともうひと刺し欲しい感じで、泣くに泣けないというか、涙が出るほどではない。もういっそ、ひとおもいに、泣けるほど傷つけられた方がスッキリできそうな気がする。

「コーヒーのおかわりは、いかがですか?」

気付けば、かれこれ2時間、会えもしない拓海をスタンバイしていた。すっかり空っぽになったカップを見て、ウェイトレスが訊ねてきた。

「あ、いや、もう出るので……あ、あの! そこの張り紙って、何ですか? あなたの人生の作戦会議します、ってやつ。」

やっと会えると思って、2時間も粘った末のドタキャンにすっかりダメージをくらっていた江梨子は、ちょっと頭をやられていたんだと思う。気が付いたら、ウェイトレスに、あの妙な張り紙について訊いていた。

「解決したいお悩みが、おありでしょうか?」

そう訊かれて、一瞬言葉に詰まった。

「……はい。このままでは嫌だな、って思うことがあって」

「そうですか。少々お待ち下さいね」

そう言うと、ウェイトレスはエプロンのポケットからメモを取り出し、何やら書きこんで、

「ここを訪ねてみてください。必ず、解決してくれると思いますよ」

と言って、江梨子にメモを手渡した。

「王生際ハナコ 作戦会議室……?」

メモに書かれた住所は、カフェから歩いて5分ほどの所にあるマンションだった。ここに作戦会議室が……。ていうか、作戦て何……。と思いながら、ドタキャンによって疲弊していた江梨子は、思考回路ショート状態だったので、あまり何も考えずチャイムを鳴らした。

受付スタッフらしき若い男性が出てきて、最初に料金システムを説明された。時間制で、占いくらいの値段だった。60分を希望すると、個室に案内され「先生が、あと10分ほどで参りますので、少々お待ち下さい」とのことだ。

ひとりになると、部屋の中には、控えめなボリュームでクラブソングが流れていることに気付いた。こういう所は普通、クラシックとかジャズとかヒーリング音楽をかけるようなイメージがあったので、意外に感じた。とにかくシンプルな部屋だった。サーモンピンク色のイスが2脚とオフホワイトのテーブルが1つ、それに間接照明があるだけ。照明は黄みがかっていて、バーほどは暗くなくて、教室ほどは明るくない。ため息を吐いたついでに深呼吸をすると、チョコミントのような香りがした。

「じゃ! ミッション頑張ってねー!! またねー!」

廊下の方から声が聞こえた。と思ったら、コンコン、とノックの音がして、ビクッとしていたらドアが開き、女の人が入ってきた。

「こんにちは、王生際ハナコです」

すごく綺麗な人だった。透明感、とは、この人のためにある言葉だ、と思うような雰囲気で、透けるように白い肌に、溢れそうなほど大きいけれど甘いだけではない鋭さのある目が印象的な「お人形さん」みたいな顔立ち。柔らかそうな栗色のフワフワした巻き髪。シフォン素材の白いブラウスが、とてもよく似合う華奢な身体。

想像していた、優しげで地味なカウンセラーや、うさん臭くて古くさい占い師とのギャップが大きくて、呆気にとられて返事もできずにいると、江梨子のような反応は初回客の定番なのか、自己紹介を無視されたことは特に気にしていない様子で江梨子の正面に座ると、ノートを開いた。

「ここに、お名前書いてもらってもいい?」

そう言って、まっさらなページとボールペンを、こちらに差し出してきた。佐々木江梨子、と書いて戻すと

「今、何歳?」

「28です……」

そうなんだー、と言いながら、ハナコは名前の横に年齢を書き加えた。ノートには「佐々木江梨子(28)」という一行だけが浮かんでいる。よし、と頷いてから、そうだ、と呟き、ハナコは改まったようにこちらを見て、

「私は占い師ではないので未来の予言をする係ではありませんし、心理カウンセラーでもないので心の治療もいたしません。 私の仕事は、お悩みを解決することです。一緒に、あなたの人生の問題解決をします。具体的に言うと、あなたが欲しい未来を手に入れるための作戦を、一緒に考えるというわけね」

占い師ではない……カウンセラーではない……。

「そのことのために、今日から取り組めるミッションを決めて、あなたの人生を動かしていきましょう」

ミッション……?


(つづく)

次回「初デートで犯した致命的なミス」は6/27更新予定。

イラスト:もりちか


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この連載について

人生の作戦会議!ーなんでも解決しちゃう女、王生際ハナコ

下田美咲

「恋愛がうまくいかない」「仕事で成果が出ない」「自分に自信がない」「運が悪い」など、あらゆる悩みを王生際ハナコが解決します! 占いでも、カウンセリングでもない、「人生の作戦会議」とは? cakes人気連載「下田美咲の口...もっと読む

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shimodamisaki 2話は明日公開だよ\( *´•ω•`*) 5ヶ月前 replyretweetfavorite

shimodamisaki またしても1位になってる!嬉しい\( *´•ω•`*) 5ヶ月前 replyretweetfavorite

yanderuakubi こんなのを連載するなんて、運営会社に旧型シモリアンがいるのではないだろうか。 https://t.co/fQDYO7Qyk2 5ヶ月前 replyretweetfavorite

Tatsu_2015 続きが気になる! 5ヶ月前 replyretweetfavorite