金融街で働く200人以上にインタビューして、金融の”リアル”が見えた—vol.1

3月発売の新刊『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』(英治出版)の著者である、世界的に影響力の大きい国際ジャーナリストのヨリス・ライエンダイクさんと、『龍馬伝』『るろうに剣心』シリーズ、現在公開中の『3月のライオン』、そして以前金融を取り上げた作品『ハゲタカ』も手掛けた映画監督の大友啓史さんの対談が実現しました!一緒にゼロから学ぶジャーナリズム、文化人類学的アプローチで対象をリアルに描くなど、誤解されがちな金融街で働く人々の本質に迫る作品を世に送り出した2人の対談を5回にわたってお送りします。

ロンドンの金融街で働く200人以上にインタビュー

大友啓史(以下、大友) 『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』の発売、おめでとうございます。大変おもしろく読ませていただきました。


なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?(英治出版)

ヨリス・ライエンダイク(以下、ヨリス) ありがとうございます。

大友 この本はどういったきっかけで執筆されたんですか?

ヨリス きっかけは2008年の「リーマンショック」ですね。金融市場がどういったメカニズムで動いているのか、世の中のほとんどの人は理解していなかった。その中でリーマンショックが起きて。みんなが「ちゃんと理解しなければいけない」と気づいたタイミングでした。

大友 なるほど。

ヨリス でも、金融はやっぱり理解するには難しい。そこで、私自身が他の人たちと同じ、知識ゼロの段階からリサーチをして、金融を理解するような「ジャーニー」に出ようと思ったんです。英ガーディアンで「バンキング・ブログ」というタイトルのコラムを連載して、ロンドンの金融街で働く200人以上にインタビューしました。

大友 知識ゼロの状態からスタートするアプローチも面白いですが、200人もの金融街の人々にインタビューできたことがすごい。僕も『ハゲタカ』という映画の撮影の際に、金融街の人たちを取材する大変さを経験しました。取材者として彼らに話を聞こうとすると、当然、守秘義務契約があるから警戒され、なかなか口を開いてくれないんですよね。なので「よくぞここまで食い込めたなあ!」と感心しながら読みました。

ゼロから金融を取材していく

ヨリス 彼らに深く話を聞いていくのは大変ですよね。大友さんが取材されたときはどんな感じでした?

大友 僕の場合はタイトル名が『ハゲタカ』でしたから、それだけで反応が厳しくって(笑)。僕がこの映画の脚本を準備していたのが、まさにリーマンショックの前。書籍で描かれている、リーマンショック以降の変貌や変化、働いている人たちの生態はとても興味深かった。

ヨリス 実際に話を聞いていくと、これまで抱いていたバンカーのイメージとは違う実態が見えてくるんです。ハリウッド的なアプローチで作られた『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』などの作品で描かれる投資銀行のバンカーたちと、金融業界の現場で働く人たちの実態は違うんですよね。

大友 僕も取材でバンカーに何人か会ってみたんです。すると、彼らは非常に思慮深かったり、家族を大切にしている人たちだった。彼らがこれまでの作品でいかに一面的な、型にはめた切り取られ方で描かれてきたことがよくわかるんです。

ヨリス メディアは「バンカーが自分たちと違う人間である」ということを強調しようとしているんですよね。僕たちもそのイメージを抱いてしまっている。

大友 そうなんです。なので、自分でゼロからリサーチしていくヨリスさんのアプローチは面白いし、実相に迫る有効な方法だなと。僕たちが映画を作るプロセスと、よく似ているとも感じました。僕らも最終的にはお客さんにわかりやすく、興味を持ってもらえるようにテーマを伝えるのが目的です。リサーチのスタンスとして、その分野のエキスパートとしては入っていかない。どちらかというと「一般人の眼」を意識して取材にとりかかります。ヨリスさんはこのアプローチをどうやって編み出したんですか?

ヨリス 人々が金融業界がどうなっているのか知りたいと思ったとき、けっして「ヘッジファンド」だったり、「アービトラージ」だったり、金融のテクニカルな話が知りたいわけではないんですよね。

大友 たしかに、専門的な知識が知りたいとは思わないかもしれないですね。

ヨリス 人々は金融に携わる人々がどういう人たちなのか、どんな生活を送っているのかを知りたいんじゃないかと思ったんです。なので、まず人に会うことからスタートしました。

「人」や「行動」を見ていく取材アプローチ

大友 なぜ、人に会うところから始めようと?

ヨリス 私は大学時代に文化人類学を専攻していました。例えば、エジプトについて調べる時は、エジプト人はどういう人なのかを見ていきますし、パレスチナについて調べる時はパレスチナ人について見ていきます。今回の対談でいえば、大友さんと私は年齢が近い。大友さんが日本人で、私はオランダ人という立ち位置。こうした場合に「私のお父さんが日本人だったらどうなっていただろう?」という視点から興味を持っていきます。


大友 ああ、それは面白いですね。

ヨリス 文化人類学は「行動」を見るんです。部族やグループの中に入っていって、2年ほどかけて研究していく。グループの中で何がどう機能しているかを分析していきます。金融業界もひとつのグループ、人の集合ですよね。今回、私はその中に入っていって、何が良しとされているのかを見ていきました。

大友 なるほど。実際に金融街の人々の中に入っていって取材をされてきたヨリスさんが、金融街の人々をどう見ているかが聞いてみたいですね。

ヨリス バンカーと呼ばれる人たちは、精神的に非常にたくましい人たちが多いんですよ。これだけ大変な仕事に取り組んでいる人たちは、金融の仕事がなければ一体何をやっていたんだろうと思いました。

大友 ヨリスさんはどう感じました?

ヨリス もし、彼らが中世に生きてたら、侍にでもなってるんじゃないかな。

大友 侍ですか(笑)。

ヨリス というのも、金融街でも一部の人たちは「自分たちが汚い仕事をしている」という自覚があるんですよ。

大友 自覚した上で仕事をしているんですね。

ヨリス そうなんです。「他の人たちがやりたくない仕事を率先してやっているんだ」という意識を持っている。これって、かつて侍のような社会的立場の人が抱いていた意識に近いと思います。自分の実力に自信を持ち、社会に必要な役割を率先して担おうという意識。それがわかったのは興味深かったですね。

vol.2は2017年3月31日頃公開予定です

(編集・執筆・写真 モリジュンヤ)

一面的にしか語られてこなかった金融業界の 人間模様を描いた傑作ノンフィクション!

なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?

ヨリス・ライエンダイク
英治出版
2017-03-14

この連載について

ジャーナリズムと物語の境界線を歩く/ヨリス・ライエンダイク×大友啓史

ヨリス・ライエンダイク

3月発売の新刊『なぜ僕たちは金融街の人びとを嫌うのか?』(英治出版)の著者である、を新しく発売した世界的に影響力の大きい国際ジャーナリストのヨリス・ライエンダイクさんと、『ハゲタカ』『3月のライオン』等の作品を手がけた映画監督の大友啓...もっと読む

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コメント

consaba ヨリス・ライエンダイク+大友啓史 ジャーナリズムと物語の境界線を歩く   2ヶ月前 replyretweetfavorite

JUNYAmori 取材、構成、執筆を担当した記事が掲載されました!全5回に渡ってお伝えしていきます。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

5656evmo15 金融の人達が高級取りなのは扱ってる金の大きさがでかいからであって汚い仕事をしているからではない https://t.co/fbP4Nhie1b 2ヶ月前 replyretweetfavorite

bishop_ring 『金融街でも一部の人たちは「自分たちが汚い仕事をしている」という自覚があるんですよ。』 2ヶ月前 replyretweetfavorite