やらない理由

痩せたいが、食べるのを我慢するのは嫌

「エッチはしたいが、付き合うのは嫌」。多かれ少なかれ誰もが抱える他人には打ち明けづらい虫のいい話。OL兼漫画家・コラムニストのカレー沢薫さんが挫折と諦めを肯定、それが正しいことだと示す当コラムで、スカッと爽快なメンタルヘルスを目指しましょう。第1回は「ダイエット」ジレンマ。

何かせねば!の呪縛

今何かやりたいことはあるか。なかったとしても「何かやらなければ」と思っているのではないだろうか。何か、とは、ダイエット、英会話、留学、ライザップ入会、昔はまったアジアン雑貨を全部焼き捨ててインテリアをIKEAで統一など、とにかく、己を高めたい、生活を豊かにしたくてたまらねえのではないだろうか。
だが、落ち着け、まずその貧乏ゆすりを止めろ、破竹の勢いで運気が落ちている。何事も焦りは禁物だ、とりあえず一晩寝てから考えるべきだ。

そして翌朝、昨日のやる気はなくなっているはずである。
しかし、数日経てば、再度何かやらなければいけない気がして、頭髪を抜く手が止まらなくなる、そしてまた寝たら消えている、それを繰り返し、ある日寝たまま目が覚めなくなる。人の一生は大体そんな感じで終わる。我々は日々雑務に追われているにも関わらず、いざ暇ができたらできたで「何かせねば」と思ってしまう生き物である。

例えば日曜日、目を覚ましたら、世界に終焉(しゅうえん)をもたらす破壊の女神(サザエ)が、今まさに鉄槌(じゃんけん)を下さんとしている時がある。
簡単に言うと、起きたら日曜の夕方だったというわけだ、よくあることである。
睡眠とはこれ以上ない休息である、日曜という休日に休息して何が悪い、むしろ模範的休日だ。それにも関わらず、何故か我々は「休日を無駄に過ごしてしまった」と己を悔い「このままではダメだ、何かはじめなければ」などと思ってしまうのだ。何かとは、前述のような有益な、己を高める行為である。
しかしそういう行為は大体途中で投げ出してしまうか、やる前にやる気がなくなってしまう。
全て自分にとっていいことのはずである、全部をやりとげていれば、今頃、叶姉妹の三女になってたかもしれないし、TOEICも1250点ぐらいは取っているだろう。
にも関わらず、未だに、コミケに来た叶姉妹を遙か遠くから眺めて「ファビュラス!ファビュラス」とはしゃいでいる側のバッドルッキングババアのままである。
それは何故か。
やりたいことはある、だがそれを遙かに凌駕(りょうが)する、やりたくない理由があるからだ。例えば「痩せたいが、食べるのを我慢するのは嫌」などである。

「正しいやるべきではない理由」の救い

意志の強い人間はこのやりたくない理由をねじ伏せてやり遂げるのだろうが、多くの人間がこれに屈して、バッドなままなのである。
固く誓ったはずのダイエットを、食べ物の誘惑に負けて挫折してしまった場合、人はどうなるだろうか。全く無反省の者もいるだろうが、多くの人間が、口の周りにカールおじさんかよ、というようなアンコをつけたまま、己の意志の弱さを嘆き責めるだろう。
しかし自分を責めすぎは良くない。むしろ一番良くない。メンがヘラってしまう原因は、他者や環境によるものもあるだろうが、一番の原因は「自分が許せない」という状態に陥ってしまうことだ、人のせいにできるうちはまだ元気だ。

何故なら、他人なら逃げることもできるし、最悪両手にバールのようなものを持って少し努力すれば、原因をこの世から取り除くことができる。しかし、自分が自分であることだけは一生逃れられない、逃れようと思ったら文字通り死ぬしかない、最悪の結末だ。よって無駄な自己批判はやめよう。やりたくない理由に屈したのではない、やるべきではない理由があったからしなかったのだ、つまりクレバーな選択をした結果なのである。

自分を好きになるというメンタル健康法

つまり本稿の趣旨は、世の中に蔓延(まんえん)する、やった方がいいであろうこと、やらなければいけないこと、それに対する挫折に対し「正しいやるべきではない理由」を提示し、メンタルのヘルスを保っていこうという、健康コラムである。
例えばダイエットなら、まず自分に「食うこと以外の楽しみがあるのか」を考える、もちろん「無」だ。すると、それを我慢してダイエットに成功したとしても、それは「痩せて良いスタイルを手に入れた」のではない「生きる屍(しかばね)になった」だけである。
恐ろしいことだ、ダイエットしなくて本当に良かった、クール&クレバーだ。だがもちろんたまには自己批判もしていこうと思う。もちろん、反省が必要というわけではない、世の中には自分を守る反省というものがあるのだ。反省というのは、自らの失敗を認め、次失敗しないための対策を講じ、実行してはじめて意味があるものになる。
本稿ではそんな反省はしない、その反省を途中で挫折してしまう恐れがある、それでは本末転倒だ。
当コラムの反省は「自分はクソ野郎である、以上」で終わらせる。
こうすることにより、反省したという実績ができ、さらに、己の失敗を認め、自分を客観的に見られる自分はカッコいい、特別な存在だ、ヴェルタース オリジナルをあげよう、という気分になれる。
自分を好きになる、というのは何にも替えがたいメンタル健康法だ。
というわけで、今後は、とにかくやらない理由を並べ、たまに思い出したかのように、自己を痛烈批判していこうと思う。

ちなみに最近、人生6億2000回目のダイエットに挫折した。
俺は豚野郎だ、以上。

この連載について

やらない理由

カレー沢薫

「エッチはしたいが、付き合うのは嫌」。多かれ少なかれ誰もが抱える他人には打ち明けづらい虫のいい話。OL兼漫画家・コラムニストのカレー沢薫さんが挫折と諦めを肯定、それが正しいことだと示す当コラムで、スカッと爽快なメンタルヘルスを目指しま...もっと読む

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April_Saturday1 バットルッキングババアがファビュラス言ってるところで何回でも噴く。 https://t.co/U5pE07kPkV 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

yukkomen3110 @masamin1000 https://t.co/7MSmCdPnke 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

j16LjejswoDFwlb バッドルッキングババア!!! 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

mana04lemoned 爽快で本当に読んでて元気になるのでおすすめです( ^-^)⊃⌒◦ 7ヶ月前 replyretweetfavorite