ビデオメッセージに対する反響
世論は素直に理解
前回までで取り上げていた7月13日のNHK特報が出ましてから1ヶ月近く経った8月8日、今上陛下ご自身の「お言葉」が、ビデオメッセージとして全テレビ局から一斉に放映されました。その時の感銘は「はじめに」の中で記しましたが、あれを視聴した大多数の一般国民は、「お言葉」を素直に理解し共感していると見受けられます。
たとえば、読売新聞社の全国世論調査によりますと、(8月11日朝刊掲載)、「天皇陛下が〝生前退位〞の意向を示唆されたことに理解を示す意見が、国民の大多数に上った」「象徴天皇のあり方に関するお気持ちを表明されたことを良かったと思う人も93%を占めた」とあります。
ただ、「陛下のご意向は理解しながらも」「公務軽減や摂政を置く」ことによって、「今の陛下に天皇であり続けてほしい、と思う人が三割」にのぼり「複雑な心境を抱く人も少なくない」と伝えています。ほかのテレビ局や新聞社による世論調査も、ほとんど変わりありません。
側近が内情を語る
一方、今上陛下と学生生活を共にしてきた身近な人々、たとえば、学習院初等科からの同級生で馬術も一緒に練習してきた明石元緒氏(日露戦争の殊勲者明石元二郎陸軍大将の直孫)は、「今年は二度、学習院時代の同窓会でお会いした」時にえた実感として「記憶力・判断力は抜群……脚力もすごい」が、「これからは今までできていたことが難しくなるだろう」から「陛下の責任感の強さを考えると〝象徴としての使命を果たすのが難しくなれば国民に申し訳なく、皇太子さまに譲位すべきではないか〞との思いをお持ち」になり、「冷静に深くお考えになった末の結論」を示されたのであろう、と語っておられます。(日本経済新聞・8月9日朝刊)。
さらに、4年前まで10年余り宮内庁の次長・長官を勤めた(現在も宮内庁の参与を仰せつかっている)羽毛田信吾氏は、前述のごとく在任中の真相を控え目に語り始められ、8月8日の「お言葉」放映後、インタビューに応じて次のごとく述べておられます(毎日新聞・8月6日朝刊)。
「今回のお言葉をお聞きし、象徴天皇としてのお務めにかける陛下のご信念とご覚悟の深さを思った。……お言葉の重みに粛然たるものを覚えた。天皇陛下は憲法第一条に規定されている「象徴天皇」として、その地位にあるだけでなく、国と国民のために一生懸命尽くすのが自らの使命だ、と思い定めておられる。……このお考えは……今後の象徴天皇のあり方の基本でもあると思う。一方……高齢化社会の中で、陛下は自分の代だけでなく、今後の天皇陛下も長寿であることが通常の状態になる時に「あるべき象徴天皇との関係においてどうなのか(どうあるべきか)」も突き詰めてお考えになった上で、お気持ち表明されたと見る。(中略)私としては、多くの人たちが……お気持ちに添うような方向で、できるだけ早く対応がなされることを願っている。(下略)」
これは、今上陛下に長らく仕え、6年前の参与会議に同席して(おそらくそれ以前から)「生前退位のご意向」を承っていた当事者ならではの切実な感想の希望として、重要な意味をもっていると思われます。
「お言葉」よりも自己の信念を重んずる人々
ところが、かねてより皇室崇敬の念が篤く、今上陛下の御即位十周年や二十周年の奉祝事業などにも尽力してきたような人々の中から、いろいろな異論が出ております。そのうち、7月段階でNHKの報道などに疑問を表明した後で、8月の「お言葉」を承ってから論調を少し変えた学者やジャーナリストも少なくありませんが、依然として反対を唱え続ける人々もいます。
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