「モノ」に振りまわされない生きかた——ミニマリスト
この「横へ、横へ」という感覚は、近代にはあまりなかったものです。上を目指すのではなく、外に出るのでもなく、横につながる。この「横へ」の感覚をさらに学ぼうと、わたしはひとりのミニマリストに会いました。
ミニマリストというのは、無駄をそぎ落とし、持ち物を極端なぐらいにまで減らして生活している人たちのことです。その代表的なひとりが、『ぼくたちに、もうモノは必要ない。』(ワニブックス)というベストセラーを書いた佐々木典士さん。
典士さんは1979年生まれの出版社の編集者で、この仕事の人にはよくありがちなモノの多い生活を送っていたそうです。しかし2013年の年末、ミニマリストの運動がアメリカで起きていることを知り、「これだ!」と天啓を受けたのです。
そこから1年ぐらいかけて、ひとり暮らしの部屋の中のモノを減らしていったといいます。
「大切な思い出のむすびついているモノもありましたが、そういうのは写真を撮って捨てました。写真を見れば思い出すことができるから」
徹底していますね。衣類はダウンジャケットと革のジャケット、冠婚葬祭につかえるブラックスーツ、それに白いシャツが3枚、パンツが数本で、アンダーウェアを除けばクローゼットには10着ぐらいしか服がありません。
「バリエーションがないと『いつも同じ服を着てる』と思われるんじゃないかと最初は恥ずかしく感じたけど、やってみると慣れて、全然気にならなくなったですね」
ただし安いファストファッションを着るのではなく、たとえばシャツは1着1万円前後。ダウンジャケットは15万円。かなり品質の良いものをそろえているそうです。良いモノを少しだけ持つ、というのが典士さんのスタイルなんですね。
室内の写真を見ると衝撃的で、フローリングの床には何もなく、不動産情報サイトによくある空き物件にしか見えません。ベッドは所有しておらず、夜になるとマットレスを床に敷いてふとんをかけて眠っています。テーブルは小さな小物入れ。食器も最小限しかありません。
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