登山から学ぶ必要最小限の極意
抽象的なわかりにくい話になってきたところで、ちょっと休憩しましょうか。
さきほど「最小限の道具で料理する」ということを書きました。この考えかたは、登山のときの食事に共通するものがあります。山を登るときに担げる重量は、自分の体力の範囲内だけ。余計な道具を持てば、その分肩はつらくなり、足の運びは重くなります。
料理の道具は、直径20センチぐらいまでのサイズの薄く軽いフライパンと、コッヘル(鍋)。火力は、ブタンガスのカートリッジを装着してつかう超小型コンロ。ツールは小さなナイフだけ、まな板はぺらぺらの薄いプラスチック板。しかし、これだけでも意外といろんな料理ができます。
ある夏の早朝、南アルプスの鳳凰三山に出かけました。
東面の青木鉱泉にクルマを駐めて、ドンドコ沢に沿った急登をぐいぐい登っていきます。視界の利かない樹林、テントや寝袋、食糧などを詰め込んだザックは20キロ近くあってけっこう重く、背中と腰を痛めつけます。汗が滝のように流れ、3時間も歩くとお腹がしっかり空いてきて、力が入らなくなってきました。シャリバテ(エネルギー源の糖質が切れてバテること)です。
大きな滝のそばを越えたあたりに座れる場所を見つけて、「暑いなあ!」と仲間と言い合いながら、ザックを下ろしました。コンロとコッヘルをとりだし、小分けしておいた米を入れて目分量で水を加え、蓋をして火をつけます。沸騰してきたらとろ火にして、だいたい8分ぐらい。火から下ろして地面に置き、そのまま蒸らしておきます。
ひとくち大にして味噌漬けにし、ジップロックでぴっちり封をした豚肉を持ってきてあります。最近は弁当箱ぐらいの大きさのソフトタイプのクーラーボックスがあるので、こういう生ものも山に持ち上げられるようになりました。
この豚肉を焼いてコンロで炙ったパンにはさんでも超旨いのですが、今日はどんぶりものをつくることにしています。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。