のび太は人格的にもアウト
『ドラえもん』の準主役、否、考え方によっては主役と呼んでも差し支えないのが、野比のび太である。勉強も運動も苦手な、怠け者で弱虫の小学生。意志が弱く、すぐ人に頼ろうとする。残念な子供の典型だ。
ドラえもんは、あまりにもダメすぎるのび太の面倒を見るべく22世紀から送り込まれたネコ型ロボットである。送り込んだのは、のび太の孫の孫であるセワシ。もともとはセワシが小さい頃に子守り役だったお世話ロボットがドラえもんであり、のび太はそのお下がりをあてがわれたというわけだ。なお、セワシという名前は「世話し」から来ていると思われる。
今や「のび太=劣等生の象徴」という認識は、日本国民ほぼすべてに行き渡っているといってよいだろう。ただ、のび太が「頭脳・体力面で平均値より劣る」という認識は浸透していても、「人格面でも劣る」という認識はそれほど人口に膾炙していない。
実はのび太ほどのクソ野郎は、なかなかいない。まずは、のび太のクソ野郎ぶりがわかるエピソードをいくつか拾ってみよう。
てんコミ2巻「ゆめふうりん」(「小学四年生」1972年7月号掲載)では、のび太が「大人になったらがき大将になりたい」と主張してパパを失意のどん底に叩きつける。「子どものうちになれないから、おとなになってからなるんだ」とのび太は説明するが、残念にもほどがある。
てんコミ21巻「いばり屋のび太」(「小学六年生」79年9月号掲載)では、タイムふろしきで大人になったのび太(精神性は子供のまま)が、ジャイアンやスネ夫たちに威張り散らして悦に浸るという、寒すぎる行動を起こす。
てんコミ23巻「透視シールで大ピンチ」(「小学六年生」80年9月号掲載)では、優等生のライバル出木杉としずかの交換日記を盗み見するという、人として完全NGの悪事を働いた。その上、のび太が糾弾されたり罰されたりということがないまま物語が終わるので、むしろ後味が悪い。ちなみに盗み見自体は過失だが、それは出木杉のノートを盗み見して宿題を写そうという悪巧みに端を発したことなので、どちらにせよ情状酌量の余地はない。
人間的アウト度が図抜けて高いエピソードが、同じくてんコミ23巻の「ぼくよりダメなやつがきた」(「小学六年生」80年8月号掲載)だ。ここではのび太以上に勉強も運動もできない転校生・多目くんが登場し、のび太は彼に友好関係を結ぼうと接近する。要は「自分よりダメな人間が来たから自分がいちばんダメではなくなった、だから嬉しい」という感情を無邪気に表しているのだ。
▲てんコミ23巻「ぼくよりダメなやつがきた」(「小学六年生」1980年8月号掲載)より
これは、「クラスのいじめられっ子が、ターゲットが自分以外に変更されて喜ぶ」のとまったく同じ構造。貧しい農民に不満を抱かせないよう、その下に卑しい身分の存在を設定した中世支配層のさもしい発想と変わらない。劇中、のび太が「あいついいやつだよ。ずっと親友になろう」と発言するに至るくだりでは、ドラえもん全作中、最高レベルに醜いのび太の言動が目白押し。ちょっとありえないくらいの心根の卑しさは、むしろ必読である。
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