掲載誌による作風の違い―水平テイスティング
ここまでは「ドラえもんファン」を自称する比較的マニアな人間たちの話だったが、ことさらマニアでなくても「ドラえもん観」は人によってだいぶ違う。それは『ドラえもん』という作品に触れた掲載誌や時期が、世代によって大きく異なるからだ。
「掲載誌」と「時期」の違いによる作風の違いをワインのテイスティングに倣って言うなら、同じ年代で銘柄を変えて飲む「水平テイスティング」と、同じ銘柄で年代を変えて飲む「垂直テイスティング」に喩えられるだろう。ワインと同じく、『ドラえもん』もこの2軸によって各人が感じる「ドラえもんの味わい」が決定されるからだ。同時期の掲載誌による違いは「水平テイスティング」、同じ掲載誌の連載時期による違いは「垂直テイスティング」で明らかになる。
まずは「水平テイスティング」、掲載誌による違いだ。
『ドラえもん』の掲載誌はとにかく多かった。主戦場であった小学館の学年誌(「小学一年生」〜「小学六年生」)ほか、未就学児向けの学習系雑誌である「幼稚園」「よいこ」、未就学男児向けの特撮・アニメ・ホビー系雑誌である「てれびくん」、小学生男児向けの特撮・アニメ・ホビー系雑誌である「コロコロコミック」、少年誌「少年サンデー」、ほか「小学館BOOK」「小学生ブック」など。
しかもFは、各誌の対象年齢と雑誌の傾向に合わせた複数通りの作風の『ドラえもん』を、同時に何本も連載していた。1973年から1986年に至っては、「小学一年生」から「小学六年生」まで同時に6パターンの物語を毎月創作していたというから、驚きだ。