グラミー賞が「波乱含み」だった理由
大谷ノブ彦(以下、大谷) 今年のグラミー賞授賞式、すごかったですね! トランプ大統領が就任して、それぞれどんなメッセージを世に問うかって意味でも注目を集めてた。
柴那典(以下、柴) まさに。そして、賞レースの結果、「アデル圧勝」には驚きましたよ。最優秀楽曲賞、最優秀レコード賞、最優秀アルバム賞の主要3部門すべてにアデルとビヨンセがノミネートされていて、始まる前から「歌姫対決」と言われていた。
大谷 それを全部アデルが持っていっちゃった。
柴 結果としては他部門も含めてグラミー5冠のアデルが主役だったということになるんですけど、でも実は波乱含みで。終わった後も火種がくすぶってるというか、納得してない人がたくさんいる。
大谷 せめて最優秀アルバム賞はビヨンセがとるべきだったって。アデル自身がスピーチでそう言ってましたもんね。「この賞はビヨンセの『レモネード』がとるべきだった」って。
柴 で、トロフィーの蓄音機のラッパの部分から真っ二つに割って半分ビヨンセにあげたという。
大谷 あのビヨンセをほめ称えたアデルのスピーチはよかったな。あそこで納得してない人も救われたというか、会場のムードがちょっと変わった気がする。
柴 グラミー賞自体が黒人を冷遇してるっていう批判もありましたね。去年にも一番前評判が高かったケンドリック・ラマーが最優秀アルバム賞をとれなかった。
大谷 今年はそのケンドリック・ラマーも、ドレイクも、カニエ・ウェストも授賞式に来なかったし。
柴 フランク・オーシャンなんて「グラミーは自分たちのコミュニティを象徴してない」と言ってノミネートすら辞退しましたからね。
大谷 話をちょっと戻すと、今回のグラミー賞って、トランプ大統領が就任して、それにどういう態度を示すかって意味でも注目を集めてたじゃないですか。
柴 そうですね。同じように1週手前に行われたスーパーボウルのハーフタイムショーで、今年選ばれたレディ・ガガが何を見せるかも注目を集めてた。
大谷 いきなりスタジアムの屋根から登場して、そこから飛び降りるっていうね! かなりエンタテインメントに徹してましたね。
柴 そのハーフタイムショーで、去年にすごいことをやってのけたのがビヨンセだったんですよ。ブルーノ・マーズとのコラボのスタイルで「Formation」をサプライズで披露した。これが「すべての女性よ、立ち上がれ!」みたいな曲で。つまり男性主義とマッチョイズムの権化みたいなアメフトの大会で「女も戦うのよ!」というメッセージを痛快に示したわけです。めちゃめちゃ格好よかった。
大谷 今回のグラミー賞でのビヨンセのパフォーマンスも女性の強さを見せる感じでしたね。
柴 まさに“女神”でしたね。双子の赤ちゃんを妊娠してるタイミングで、大きなお腹を抱えて歌って。
今回、これだけ波紋を呼んだのは、やっぱりビヨンセのグラミー授賞式でのパフォーマンスがめちゃめちゃ素晴らしかったからですよね。あんな圧倒的なものを見せたのに無冠なんだっていう気持ちがみんなにあった。
大谷 すごい包容力だった。あれは歴史に残るレベルだよ。
柴 観音様みたいでしたよね。
グラミー賞と「ポスト・トランプ」
大谷 でも、今回のグラミー賞は、アンチトランプ大統領って人はあんまりいない気がしたな。
柴 いや、実は結構いろんな人がやってるんですよ。