ポナンザの電王戦デビュー

生みの親である山本一成さんを見事打ち負かしたポナンザ。今度はいよいよ人間のトッププロと対局することになります。2013年3月、ポナンザは電王戦で佐藤慎一四段(当時)とまみえました。結果はどうだったのでしょうか。

 ポナンザは、第2回電王戦の第2局に出場することになりました。2013年3月30日の当日、対戦相手である佐藤慎一四段(当時)は和服を着て対局場にきました。棋士が和服を着て対局場に望むことは、極めて本気であることを表しているのです。真剣勝負の将棋です。

 序盤はポナンザがリードを奪います。かなり有利になったので、私は勝てるんじゃないと思い始めました。しかしポナンザが予想していなかった勝負手を佐藤四段が指し、そこから勝負の行方は混沌としてきました。

 ポナンザが意味のわからない手順を指していて正直だめかと思う局面もありました。しかし、佐藤四段も決めきれずにずるずると戦いが長引き、戦いは夜までもつれ込みます。

 こうなると正直、コンピュータの舞台です。なぜならコンピュータは疲れを知らず、そしてなにより、コンピュータは真の意味で絶対に諦めません。

 ポナンザの粘り強い指しまわしに、佐藤四段にわずかずつミスが出てきて、最後はとうとう佐藤四段の投了となりました。

 現役プロ棋士がコンピュータに敗れるという、将棋の世界、そして日本のコンピュータ科学において重要な日となったのです。

 対局が終わり、そのあとすぐ記者会見がおこなわれました。記者会見の時の雰囲気は正直ゾッとするようなものでした。

 異様に沈んだ雰囲気。まさにお葬式と同じ空気でした。それも不思議ではなく、その日はプロ棋士の絶対神話が死んだ日だったのです。

 佐藤四段も含めた何人かのプロ棋士の人々が、口々に負けて申し訳なかったという趣旨のことを述べます。私も「今日は日本の情報科学にとって大事な日だ」とかろうじて言うことができましたが、会場の雰囲気に飲み込まれてしまいました。

 最後に全員で退席するときになって、私は佐藤四段に握手を求めました。顔面蒼白ながら、ためらいがちに私と握手をしてくれました。彼の手が汗で濡れていたことをよく覚えています。

 後日、佐藤四段のブログのコメント欄には、将棋プログラムに負けたことを非難するコメントで溢れかえりました。将棋ファンのコンピュータ将棋に対するアレルギー反応が、強烈なものであることを認識せざるをえない事件でした。

 ただただ、楽しくコンピュータ将棋を作り、人工知能と向き合ってきた私でしたが、この時以降、人間というものにも向き合わねばならなくなったのです。

プログラマからの卒業
この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
人工知能はどのようにして「名人」を超えるのか?

山本一成

2016年、電王戦で5戦全勝した将棋AIポナンザ。開発者である山本一成さんは「知能とは何か?」「知性とは何か?」ということを何度も自問することになったそうです。そうすることで、逆に人間の知能がクリアに見えてきたと言います。この思考の結...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

AI_m_lab ご参考までに ▼|人工知能はどのようにして「名人」を超えるのか?|山本一成|cakes(ケ… https://t.co/3Lv8w1aFXA #人工知能 2ヶ月前 replyretweetfavorite

nyanmage_x AIプログラムがプログラマの手を離れる事を卒業と言うのか…。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

c2factory それにしても、簡単なことをわざわざ小難しく書く人が多い中、どう考えても難しい事柄を平易に表されていて、敬服するばかりです。 2ヶ月前 replyretweetfavorite

c2factory 「絶対神話が死んだ日」とありますが、電王戦を観ていた多くのにわかファンは、そもそもそんな「神話」があったことも知らなきゃ、あったからどうなの?という感じでしたね。 @issei_y | 2ヶ月前 replyretweetfavorite