今日は本を読んでいなくてもわかるお話をしようと思います。読んだ方はおわかりかと思いますが、内容が多岐に渡っていて、食の話から住まいの話、衣服の話やテクノロジーの話も出てくるので、既に何度かイベントでお話したのですが、全体を話そうとすると散漫になってしまい、不本意な感じでトークが終わってしまったので、今回は住まいの話にしぼってお話しようと思います。ここがいちばん面白いんじゃないかと思います。
住まいといっても、家の間取りなどの話ではなく、住まい方そのものがこれからどう変わっていくのか、という話です。
この本のテーマで大きく扱っているのが「街に暮らす」という概念です。マンションなのか、一戸建てなのか、分譲なのか賃貸なのか……というふうにみんな家を決めるけれど、もうちょっと街全体を眺め渡してみて、「街のなかで我々は暮らしている」という発想が大事なのではないか。
先にメインテーマを提示します。
いま、すごい勢いで衣食住がミニマルになってきています。例えば、着るものはストレッチの入った柔らかい素材が登場して、ほとんど裸で暮らしているのと変わらないくらい、真冬でも薄い服で暮らせる。荷物もどんどん少なくなって、小さなバッグひとつでどこへでも行けるようになりました。家の中もすごくシンプルになり、モノは少ない。断捨離という言葉が流行ったり、ミニマリストが流行ったり、どんどんシンプルになってきている。100年後にはたぶん、スマホもウェアラブルもなくなって、電子機器みたいなものは脳内に埋められて、服も見た目はほとんど裸の原始人と変わらなくなって。一見、有史以前のように野山で暮らしているように見えても、その裏側では猛烈にテクノロジーが動いていて暮らしを快適に支えていて、ブラックな仕事もなく、穏やかに人とつながるゆるゆるとした暮らしが、ひょっとしたら実現しているかもしれない。そういう遠い未来のビジョンを考えながら、今回の本を書きました。
衣食住がミニマルになるとどうなるかというと、ミニマルになればなるほど、外に向かって開かれる必要がある。家の中になにもないと、外に行かざるを得ない。外に開かれる感覚が、ミニマルの裏返しなんじゃないでしょうか。ミニマルというとどうしても、永平寺の雲水みたいな生活をイメージしてしまうけど、それじゃあ辛いだけですよね、人間が本来持っている欲望もあるし。その欲望を内側ではなく外側で満たす。人とつながったり、外で何かをしたり、そういうのがこれからの暮らし方ではないか。
「ゆるゆる」という言葉がこの本の重要なキーワードで、僕はすごく大事だと思っています。例えば「食」でいうと、“おいしいものが食べたい”、“からだに良いものが食べたい”と思って「無農薬」「有機野菜」「オーガニック」という方向に行くのだけど、行き過ぎると原理主義になってしまって、オーガニック以外は絶対食べるな、という話になってしまいがちです。それはそれで生きづらいですよね。そうじゃなくてもっと、コンビニ弁当も食べたって良いというくらいの「ゆるさ」が大事で、そういう感覚を保ちながらどんどんミニマル化していく、というのがこれからの時代なんじゃないか。そういうことを「住まい」に落としこみながらお話していきます。
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