知的生活の方法(渡部昇一)

今回は1976年に発売され、啓発書として広く読まれた渡部昇一の『知的生活の方法』。finalventさん自身の読書法にも大きく影響を与えた、「知的生活」とは一体どんなものか。また、自分だけの「古典」を作るとはどういうことなのか。本連載のテーマにも大きく関わる書評です。

生活に道筋を与える本書の価値

 40歳以降、あるいは35歳以降かもしれないが、人生を振り返ることができる、ある一定の年齢に達したころ、「あの本が今日の自分を作った」と思えるような本が心に浮かんでくるものだ。一冊のこともあるし、数冊のこともある。たいていは若い日に大きな感銘を与えてくれた本だ。しかしそうした本とは別に、すぐには心に浮かび上がって来ないのに、しばらくしてふと「あれも自分を変えた本だった」と再確認する本もある。「感銘」といった心への影響ではなく、「習慣」としての生活スタイルに道筋を与えた本である。1976年に講談社現代新書として出版された渡部昇一による『知的生活の方法』(講談社現代新書)は、私を含め多くの人にとって、そうした本の一つである。

知的生活の方法 (講談社現代新書 436)
知的生活の方法 (講談社現代新書 436)

 「知的生活」とはなにか。意外にも同書には著者による定義がない。しかし当時の読者にとっては、たとえ見慣れない言葉であっても、その意味は明白だった。読書などで日々の生活を知的にしたいという時代的な要求があったからだろう。とはいえ、編集者が付けたと思われる初版の紹介文には「知的生活とは、頭の回転を活発にし、オリジナルな発想を楽しむ生活である」とある。間違いではないが、本書が語る内容、また、本書が依拠した19世紀の英国人批評家であるP.G.ハマトンの考え方とは異なる。

 「知的生活」の定義は、同書がベストセラーになってから著者の渡部に問われるようになったようだ。同じく講談社から4年後の1980年に共著として編まれた講演集『知的人生の生き方』で彼はハマトンをひいてこう説明した。


知的人生の生き方

 私はハマトンの例をあげましたけれども、知的という生活の意味ですが、これはけっして学校の勉強ということではありませんし、出世するための頭の使い方ということでもないと思います。
 要するにハマトンは、自分で考え、自分が満足できる生活—それは彼にとっては絵を書くことであり、本を読むことであり、本を書くことであった—それを知的生活と言ったのです。


知的生活

 自分の知性を使って、「自分で考え、自分が満足できる生活」が「知的生活」である。そこには政治的なイデオロギーや価値判断は直接的には関わらない。渡部は右派的な政治議論の論客としても有名だが、本書『知的生活の方法』では、資本論の訳者でもあり、左派的な政治議論で著名だった向坂逸郎の知的生活も称賛している。

「知的正直」な生き方

 知的生活には、二つの側面がある。「知的生活と言っても、大ざっぱにわけて受動的な知的生活と、大いに能動的な知的生活との二種類がある」とし、本書の前半に読書を中心とした受動的な知的生活、後半に書籍や論文、コラムやエッセイなどを執筆する能動的な知的生活が説明されている。

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