それを作れば、やつらが来る

変わった虫はたくさんいますが、なかには“アスパラガスしか食べない虫”というのもいるそうです。そんな超・偏食の通称「アスパラムシ」が、金田さん夫妻の菜園にも姿を現しました。同じくアスパラ好きの夫が駆除を主張する一方で、金田さんはその虫に愛着を抱いてしまい……。

アスパラしか食べない

野菜を食べる虫たちは、皆、かなりの偏食だ。

ウリハムシは、キュウリやカボチャなどのウリ科の野菜が好物だし、ニジュウヤホシテントウは、ナスやジャガイモなどナス科の野菜ばかり食べる。

なかでも、アスパラガスにつく小さな虫が、私はとても気になった。

生まれて初めて見る虫だ。

体長は7㎜ほど。鮮やかな朱色で、テントウムシのように黒い斑点がある。コントラストが美しく、小さくてもよく目立った。

「そいつはね、アスパラにしかつかない虫なんだよ」

お隣のN村さんが教えてくれた。

「アスパラしか食べないの? アスパラだけ?」

「そう。アスパラだけ」

驚いた。そんな限定された食生活で、これまでどうやって生き延びてきたのだろう。

だったらアスパラの産地で暮らせばいいのに。この一帯に、いったいどれだけアスパラを育てている人がいるというのだ。


これがその虫です。おいしそうにアスパラを食べています。

どうやって知るのだ?

だいいちこの虫は、ここにアスパラが植わったと、どのようにして知ったのだろうか。

偵察して回っているのか?

いやいや、チョウが花を探すのとはわけが違う。あるかないかもわからぬアスパラを探して、こんな小さな体で飛び回るなんて。

匂いかな? 3㎞先のアスパラ臭をキャッチするとか?

気配かな? アスパラの気を感じるとか?

ちなみに私の好物は生タラコだが、どんなに意識を集中させても、この近辺のどこにタラコがあるかなんて、わからない。それどころか、頭にタラコを乗せられても、「なんだかぺちょっとしたものが乗った」くらいにか感じないだろう。

けれどこの虫は、なんらかの能力でアスパラガスの存在を察知するわけだ。

「要するに、『それを作れば、やつらが来る』ってことでしょ」

夫はそう結論づけた。古い映画で恐縮だが、『フィールド・オブ・ドリームス』の名ゼリフだ。

正しくは『それを作れば、彼が来る』だけどね。


イナゴも来ました。イネにつくからイナゴなのに、アスパラにつくなんて。世の中不思議でいっぱいです。

「パ」の字もないの?

「この子たちはかわいそうなので、駆除しないことにします」

私が宣言すると、夫は鬼の形相でこう命じた。

「殺しなさいよ」

じつは夫も、アスパラガスが好物だ。

「こんな小さな虫がちょっとかじるくらい、いいじゃない。ほかの野菜は食べられない子なんだよ。食物アレルギーみたいなもんだよ」

農家は農薬を使うだろうし、私までアスパラを取り上げたら、この子たちはどうやって命をつなげばいいのさ。

「あなたはそのあとを食べればいいのだよ。だいいち、今は茎葉が育つ季節で、アスパラが出る季節じゃないんだから」

夫がどんなに反対しようが、虫の駆除は私の担当だ。私は彼らを放置し、好きにアスパラを食べさせることにした。

店子にするからには、名前を知らないとね。

「アスパラしか食べないから、“アスパラなんとか” だろうな」

そう見当をつけた私は、その虫の名を調べて唖然とした。

『ジュウシホシクビナガハムシ』

アスパラの『パ』の字もない。

区切って読むと、「ジュウシホシ・クビナガ・ハムシ」。要するに、「14個斑点がある・首の長い・ハムシの仲間」ということだ。

この虫のいちばんの個性が、まったく無視されている。

「アリを食うからアリクイで、フンを転がすからフンコロガシだろ!」

私は憤慨し、彼らに親しみをこめて「アスパラムシ」と名をつけた。

やがてかわいいアスパラムシは、恋をして、卵を産んだらしい。親とは似ても似つかない不気味なイモムシが生まれ、それが親以上にアスパラの茎葉を食った。

「これじゃあ、来年の春アスパラが出ないよ!」

夫は怒鳴り散らし、私はうなだれて、親子ともども店子を始末したのである。


奇妙な根

ところで、アスパラガスがどのように育つかご存知だろうか。

私たちがアスパラ栽培を始めたのは、ホームセンターで見かけた奇妙な物体がきっかけだった。

「アスパラガス」と書かれた袋に、スルメの足のような、得体のしれないものが入っていたのだ。

「これを土に植えると、アスパラが出るんだって」夫が説明書きを読んだ。

「根株」というものらしい。


これがアスパラガスの根株です。宇宙と交信していそうな物体です。

それまで考えたこともなかったが、アスパラは土から出るようだ。

「たしかにツクシに似てるもんね」

そう思ったが、アスパラとツクシはまったく違う植物だった。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
シロウト夫婦のズボラ菜園記

金田 妙

毎日、採れたての新鮮な野菜が食卓にのぼる。そんな生活に憧れる人は多いのではないでしょうか。自分で野菜を作れればよいけれど、畑はないし、仕事は忙しいし、週末は遊びたいし…。それでも、思いきって家庭菜園の世界に飛びこんでみたら、おもしろい...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません