錬金

とにかく動けば化学反応は起きる

ネクサスドアの社長だったとき俺はあらゆる女を抱きまくった。でも彼女たちは金と名声に吸い寄せられたにすぎない。俺がタイムスリップした1978年の西島和彦はまだ無名なのに、人間力だけでモデルや女優の卵を手当たり次第口説き落としていた。うらやましい……。セックスを終えたばかりの西島は俺にこう言うのだった。「ただのナンパと違うぞ!仕事の一環や!」
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ウマ面(つづき)

 今日も俺は、西島の家のリビングのソファで寝ていた。居候だから文句を言うつもりはないけれど、俺にあてがわれたはずのベッドルームは、しょっちょう“使用中”となる。

 西島がどこかで引っかけてきた女と、一晩中セックスしているのだ。

「あん……和彦さん、ダメだってもう……」

「ええやんけ、ラスト!」

「あ、ダメ、待って! あっ、あっあっ……!!」

「うっ、うっ、くっ!」

 情熱的な肉弾戦の声が、ドアを1枚隔ててまる聞こえだ。ベッドのギシギシときしむ音と共に、吐息とあえぎ声と笑い声が、俺の耳をくすぐる。リビングで頭から毛布にくるまっているけれど、落ち着いて寝られるわけがない。

「うるせぇ……」

 と呆れつつ、西島のバイタリティには感心もしていた。

 連れて帰ってくる女はコンパニオンや受付嬢、女子大生、看護婦など、けっこうレベルの高い美女ぞろいだった。そして家に俺がいてもまるで平気でイチャついて、女の子をその気にさせ、ベッドに誘いこむ。22歳だから性欲は有り余っているにしても、女体の大食漢ぶりには恐れ入った。しかも酒を一滴も飲まずに、口説き落としているというから驚きだ。

 俺も社長時代には、さんざんいい女を抱きまくった。しかし女たちはみんな、俺の金と名声に寄ってきた。西島は、いまは有名人でもないし実績もない。自分の持っている魅力だけで女を落としてきている。男として、素直にすごいヤツだなと思った。

 感心している一方、収監されて2年以上、禁欲生活をしていたのだ。快楽に突き動かされる若い女の声を漏れ聞いて、平常心でいるのは難しい。股間に熱い血がたぎってくるのをひとりで耐えるのみ。こんなことならタイムスリップ前に、風俗に行き倒しておくべきだったかなと、情けない後悔がよぎった。

 ふと、由里子の姿を思い出した。

 彼女を抱いたのは、いつだったかな。

 もう感触が、手のひらの記憶から消えかけている。

 1度だけの関係だった。それでも、他の女たちのように、札束とセットになった俺に股を開いたわけじゃない。

 俺をひとりの男と認めて受け入れてくれた。

 触れた柔らかい肌の感触が消えても、彼女の存在は忘れられない。

 会いたいと、あらためて強く思った。

 この時代のどこかに、彼女が消えた理由が隠されているのか──。

「あ──すっきりしたわ!! 腹減ったぁ──!」

 と言って、西島がドアを蹴飛ばす勢いで、ベッドルームから出て来た。上半身は裸。筋肉のほどよくついた若い胸板に、いくつもキスマークが残っている。

 ドアの隙間から、女が背を向けて、ぐったり寝ているのが見えた。すっ裸だ。背中に汗玉が浮かび、白い肌が桜色に上気していた。くびれた腰の下の豊かなヒップラインから、湯気がたっているよう。ほとんど気絶しているようだ。

 西島は腹をぼりぼり掻きながら言った。

「おう優作、何か朝飯つくってくれや! あと冷たーい茶を入れてくれ!」

 俺はのっそりソファから起きて答えた。

「いいですけど、女の子は放っておいていいんですか」

「おう、ええねん。そのうち起きてくるやろ」

「誰なんですか、今度の子は」

「19歳の女優のタマゴやって言うてたな。アキコやったかサチコやったか。どっかの事務所にも所属してる言うてたけど。全然、覚えてへん。覚えてるのは口説き落とすまで1時間かからんかったことぐらいやな」

「そのぐらいの情報量の子を、よく家に連れこめますね」

 と苦笑いしながら、俺は西島に冷茶を出した。西島は一気にくーっと飲み干して言った。

「優作、ただのナンパと違うぞ! 仕事の一環や!」

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HHIKARI7 これからの時代は適応能力が求められるのか。時代が進むスピードは加速していく一方だし、泥臭くとも動かないと! 3年弱前 replyretweetfavorite