—そもそも、宇宙兄弟のサイトで「宇宙人生」を連載することになったのはなぜですか?
高校時代の友人が佐渡島さん(株式会社コルク代表取締役、『宇宙兄弟』初代担当編集:通称サディ)を紹介してくれたのが始まりです。
佐渡島さんの本を読んでると、長いスパンで作家のことを考えてくれる人なんだろうなと思って、僕の方からメールを送りました。その時、ちょうど出版した僕の著書もお送りしたんですが、「面白かった」とお返事をもらえて、その流れで『宇宙兄弟』のサイトで連載する話を持ちかけていただきました。
宇宙人生という連載も、最初は僕の本の続編のような感覚で書いていました。ただ、どんなものが読者にウケるのかということにはもともと興味があったので、連載の中で色々と試行錯誤をするようになりましたね。
(小野さんの連載『宇宙人生』の第一回はこちらから)
例えば、文体を柔らかくしてみたり、時事ネタを取り入れたり、宇宙人のような一般ウケしそうなネタを選んでみたり、本当に色々なことをやらせてもらっています。なので、連載も最初と今では随分トーンが変わっていて、僕の試行錯誤の軌跡が『宇宙人生』という連載だと思ってもらえると嬉しいです。
—宇宙へ興味をもったきっかけ、はじまりは?
ムッタにとっては、UFOが宇宙に目覚めたきっかけでしたが、僕の場合は父からもらった望遠鏡でした。望遠鏡で月を見ながら「すごいなぁ」って思っていました。『宇宙兄弟』にもそういうシーンがありましたね。
宇宙探査や宇宙工学に興味を持ったのは、僕が小学1年生の頃にボイジャーが海王星に着いたことがきっかけです。宇宙人生の方にも書きましたが、「地球がサッカーボールの大きさだったら海王星は75キロも先にある」というたとえ話を父がしてくれて、「すごく遠いところまで人間はたどり着いたんだな」と思ったんです。それが宇宙探査に興味を持ったきっかけです。
画像:木星に到着したジュノーの想像図。Image: NASA/JPL
—ムッタが布団の中で宇宙を感じたシーンがありましたが、小野さんが宇宙を感じたことはありますか?
これもやっぱり父がサッカーボールの話をしてくれた時です。そもそも、宇宙を感じるというのはなかなか難しいと思います。それは宇宙という存在に実感を持つ体験をし辛いからです。たとえば、象が目の前にいたら「大きいな」って思いますよね。でも、宇宙は目の前にあるものではありませんし、上から俯瞰して見ることもできません。だから、実感として大きさや存在を感じるのは難しいです。
けれど、「地球がサッカーボールの大きさだったら海王星は75キロも先にある」という父がしてくれたたとえ話は「宇宙ってすごく大きいんだ」と実感を持って想像することができたんです。そのときは、なんだか太陽系を上から眺めている気分になってすごいスケールだなと思いました。
—そもそもなぜ人は宇宙を探査するのでしょう?
宇宙探査というと新しいことのように感じますが、人類が歴史の中で繰り返し行ってきたことの一部が宇宙探査だと僕は思っています。
まず、人類はアフリカで誕生して、種として世界中に広がっていきました。そして、文明も世界の幾つかの場所で生まれましたし、たとえばヨーロッパ人はアメリカ大陸に渡りましたね。20世紀に入ってからは南極にも行きましたし、エベレスト登頂も果たしました。
人類は訪れたことのない場所を開拓してきた歴史を持っています。宇宙探査もその延長線上にある活動だと思っていて、人類や文明のフロンティアを押し広げていく活動だと思いますよ。
—その探査によって人類は何を得るんですか?
一つは知識です。人間のことをホモ=サピエンス(知識のある人)とも言いますが、知識を得ることは人間の根源的な欲求だと思います。もう一つは冒険そのものに価値があると思います。
これは僕の意見ですが、エベレストを前にして無関心でいるよりも、それを登ろうとする方がより人間らしいように思います。同じように宇宙が目の前にあるのに、そこに行かずにいるのは人間の本能から目を背けているのかなという気が僕にはするんです。
だから、冒険それ自体に価値があると思います。
—探査をすることは、宇宙の始まりを知ることになると、次回よりはじまる連載で書かれていましたが、どういう意味でしょうか?
宇宙へ飛び出すことで解明される真実というのが多くあります。ただ、残念ながらその答えは地球にはほとんどありません。
例えば、地球でどのように生命が生まれたか?というプロセスについても、地球の中だけで研究するより、太陽系が生まれたプロセスを解明することで、その答えを得ることができるかもしれないんです。
そのように、宇宙の探査が多くの神秘を解き明かす鍵になっているということです。
—宇宙関連のニュースが世間を騒がせることがありますが、小野さんみたいな技術者だから興奮するニュースとかポイントとかってありますか?
僕が興奮するポイントは「どれだけ途方も無いことをしているのか」です。先ほどから話にも出ている海王星は、光の速さでも4時間かかるような本当に遠いところにあります。だから、海王星に人間がたどり着いてしまうみたいな途方も無いことを人類が成し遂げている時には興奮してしまいますね。
また、今まで知らなかった世界を知ることができたという興奮もあります。
今、僕が書いている本には、僕が今感じている興奮をできるだけ多くの人に感じてもらいたいという目的があります。そのために、今、宇宙探査で使われている技術を噛み砕いて紹介しようとは思っていますが、それだけで終わってしまうのではなく、人類が5000年の間で挑戦してきたことを紐解きながら紹介していきたいと思っています。
技術的な視点と歴史的な視点が合わさると、人間のイマジネーションと技術がどのように人類の夢を叶えてきたかということを紹介できると思いますし、そうすることでたくさんの人に僕の感じてる興奮を伝えられると思っています。
—バズ・オルドリンと会ったと連載にありましたが、かつて、または現在の偉人、天才について思うことはありますか?
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