人間の思考をコンピュータにトレースしようとした科学者たちの失敗を具体的に見てみましょう。
たとえば画像を見て、その画像に何が写っているかを評価することは、昔のコンピュータにとって恐ろしく難しい問題でした(この「評価」は、「判断」とするのが国語的に正しいのでしょうが、第3回の説明にのっとり「評価」という表現を使います)。
画像にコップが写っているかどうかを評価するプログラムを考えてみましょう。コンピュータの記憶力がどれほどよくても、世のなかに無数にあり、今後も無限に生み出されるコップの形状をすべて把握しておくことはできません。
それにコップのアングルや光の状況によって、同じコップでもまったく異なる写り方になることもしばしばです。
しかし人間は、見たものがコップかどうかを楽々と評価できるのです。同じような形のバケツやお茶碗とまちがえることはほぼありません。
図1−6 人間がどのようにコップを判別しているかはブラックボックス
人間がどうやってコップをコップと評価しているのか、それを解明しようと科学者たちは努力を重ねてきました。しかし結局、人間がどのようにコップを評価しているかという「プロセス」を解明することはできませんでした。
そこで科学者たちはプロセスの解明を諦め、ある種の方向転換をします。
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