錬金

自信に根拠なんていらない

マクロソフト社のビンセント・ゲイツに直談判して、BASICの日本での販売代理店契約を取りつけた西島和彦。快挙だ。西島とともにアーキテクトを創業した成田は語る。「虚勢も大ボラも西島さんが唱えると、そうなのかと思ってしまう。実現困難性の規模感や認識力を歪ませ、非現実的な事象を現実的な事象にすり替えるんです」。それが西島の商才だという。確かに。俺は深く納得した。
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第3章 バカ息子

現実歪曲フィールド

 帰国してすぐ、ジョイント・インターナショナルで、古畑と成田に会った。西島とビンセントの契約時の話をすると、声を揃えて「あの人らしい」と言った。

 古畑は缶コーヒーをすすりつつ、痩せた頬を指でかいた。

「西島さんは常識ではあり得ない奇跡を、勢いとパワーでやっちゃうんですよ。ビンセント・ゲイツに直談判して、日本のBASICの販売代理店の契約を取りつけるとか……うちみたいな学生起業の出版社が、無茶苦茶な話ですよ」

「まあ普通なら、ビビるところですよね」

「ビビるとか以前に、後先考えてない。成田も困ってましたよ」

 背中を向けてキーボードをカタカタ叩いている成田が言った。

「アメリカまでの西島さんと優作さん、おふたりの旅費。往復のビジネスクラス運賃と宿泊滞在費で合計、350万円になります。こんなもの経費で回されても、処理は困難です」

 成田はガンッ!! とエンターキーを強く叩いた。怒りがこもっている。

 古畑が怯えるように、声を少し下げた。

「金に関しては西島さんは、お祖母ちゃんに甘えたりして、何とかするんでしょうけど。いちおう社長なんだから、常識的なやり方も、少しは身につけてほしいですよ。今後のためにも」

「でもBASICの販売独占は、めちゃくちゃでかいですよ。アーキテクトはこの一発で大儲けできます」

「かもしれませんね。そういう意味では経営者としての才覚はある。人のバランスって、難しいですね……」

 と言って、古畑は苦笑いした。俺は訊いた。

「古畑さんは、なんで西島さんに付いて行くんですか」

 うーんと少し考えて、古畑は答えた。

「僕は基本的に、火を燃やすより、火をコントロールするのが向いてるんですよ。アーキテクトではいつも西島さんが、どこかに火を点けてくる。それを観察して、もっと燃やして炎にしたらいいのか? すぐ消さないとダメなのか? を選ぶ。だから片手には水の入ったバケツ、もう片方の手にはガソリンタンクを持っています。水をかけるのか炎上させるのか、調整するのが僕は得意なんですよ。

 西島さんは違う。火を点けるだけで、下手したらあらゆる場所を焼き尽くそうとするでしょ。喩えは悪いけど、僕にとってはコントロールしがいのある放火魔っていう感じです」

「面白いなぁ。わかる」

「ただ火を点けるにしても、彼はタチが悪いんですよね。火なんか点けてませんって、平気でウソついちゃったりする。背中まで燃えてるのに。発言や行動が、矛盾することに躊躇いがなさすぎる。肝が太いというか何というか……。扱いに慣れてない人は、ウソに騙されて、大やけどしちゃったりね。それはそれで他人をいいように使う、西島さんの天才的な才能なんですけどね」

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コメント

tipi012011 スイッチが入ったときの成田さんの顔が見てみたい。 約3年前 replyretweetfavorite

yokokawakaede フライト時間でこちらの本を読了。勉強になるとても面白い小説でした。この「火を燃やすより、火をコントロールするのが向いてる」人の話がなるほどなと思った話の一つ。 約3年前 replyretweetfavorite