三軒茶屋のノスタルジックゾーン【三角地帯】

2020年の五輪開催を見据えて、東京の街は大きな変貌を遂げつつあります。その危機感から、今ならまだ間に合う、今しか会えない、昭和の古き良き風景を伝えるべくスタートした本連載。
第8回は、今や“オシャレな街”というイメージを獲得した三軒茶屋に、置き去りにされたように残る魅惑の横丁「三角地帯」。風情も活気もあるのですが、ここにも防災や修繕の問題があるらしく…。

元々は関東大震災や戦災で移ってきた下町の人が多く暮らしていたという。5坪程度の店が多いのも、そのころの名残である。

工業地帯、砂漠地帯、不毛地帯、真空地帯……。◯◯地帯という言葉は、その広がりに足を踏み入れればミステリアスでサスペンスな何かに出会えるような、ちょっと危険な匂いがしません?そういう意味で言うと誰が名付けたのかこの〈三角地帯〉、奥まで分け入っていきたくなる引きのあるネーミングだ。でも実際には、この三茶・トライアングルに進入しても飛行機が消息不明になるような超常現象も起こらず、今日も平和な三軒茶屋駅前商店街の風情を楽しめるのみである。

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国道246号と世田谷通りの二辺に挟まれた2000平方メートル弱の三角形の土地に70軒ほどの店が寄り集まっている。〈エコー仲見世商店街〉〈ゆうらく街〉などと、それぞれの通りには名前がついており、夜ともなれば飲み屋の灯りがともって、しみじみとした横丁の雰囲気が味わえるが……ヘンな言い方になるけれど、この横丁、暗闇に暗さがない。幅の狭い古い路地ではあるものの、駅前なので通行人も多く、夜女性ひとりで奥へ奥へと分け入っていっても、怪しげな人なんかが潜んでいそうな不穏な暗がりがなく、隅々まで灯りが届いているように思えるから。大昔から丹沢・大山にある阿夫利(あふり)神社への大山詣をする人々で賑わい、明治以降も陸軍施設や玉電(玉川電気鉄道)の駅に人が行きかう、日の当たる場所だったからかもしれない。それと、こんな型にはめた言い方はいけないけれど、やっぱりここ、「世田谷」だしね。



駅前の一等地に今も残るヤミ市の雰囲気。スクラムを組むように密集した建物のなかで、ベテランの店も新人の店も肩寄せ合って商売を営む。その様子がたまらない。

世田谷の牧歌的横丁が東京五輪前後で変わっていく。

さて、〈三角地帯〉のルーツは、ヤミ市である。戦中の強制疎開や空襲により、空き地となっていたところに戦後ヨシズ張りの店がぽつぽつとでき、その後戦災を逃れほうぼうに散っていた人々や他所(よそ)から入ってきた人々が集まり、〈エコー仲見世〉には昭和24年にアーケードもついて、商店街が生まれた。今回の取材では、ありがたいことに当時のことを教えてくれる多くの方々に出会うことができた。皆さん、大正期~昭和20年代前半までにこの地に来た人々である。

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この連載について

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東京ノスタルジック百景 シーズン2 ~今見ておきたい昭和の風景

フリート横田

ライター兼編集者として、数々の街歩き取材を重ねてきたフリート横田氏。著書『東京ノスタルジック百景』からのcakes連載が好評を博し、満を持して書き下ろしの連載がスタート。2020年の大イベントを控え、急激に変化しつつある東京。まだわず...もっと読む

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コメント

snowpandas #世田谷 #昭和 #レトロ 3年以上前 replyretweetfavorite

seijonomati1 【 #三軒茶屋 3年以上前 replyretweetfavorite

inter_king この間、久々に探索した。 3年以上前 replyretweetfavorite