ロングテールとモンスターヘッド
『ブロックバスター戦略』の中では、デジタル音楽市場の分析によって「ロングテール」の実態が解き明かされている。
事実、かつてに比べてリリースされる作品の量は格段に増えた。制作費が安くなったこと、誰もがネットを通して作品を発表できるようになったことで、とても広大なニッチ市場が成立するようになった。ロングテールは確かに長くなった。
しかし、その先端は極端に細くなり、ロングテールの先っぽは、儲けを生み出すにはほど遠い小規模の売り上げのものが占めるようになった。
その一方で、SNSが普及したことで「みんなが話題にしている」という状況がもたらす波及力がさらに増した。人々は、周りの人と同じ音楽を聴きたがり、同じ映画を観たがるようになった。エンタテインメント産業における勝者の影響力がより強くなった。
結果、圧倒的なスケールで成功をおさめるトップスター、いわば「ロングテール」と対極の「モンスターヘッド」の存在感が増した。
(PHOTO:iStock)
同書の中では、かつて「ロングテール」理論の信奉者だったというグーグル会長のエリック・シュミットの発言が引用されている。
「インターネットはむしろ、これまで以上に大がかりなブロックバスターやブランドの集中化を招くことになるだろう。……人がたくさん集まれば、やはりスーパースターが欲しくなるものだ。今の時代、スーパースターはアメリカにとどまらず、世界のスーパースターになる。つまり、世界的なブランド、世界的な企業、世界的なスポーツ選手、世界的な有名人ということだ」 (アニータ・エルバース『ブロックバスター戦略』東洋経済新報社)
10年代、グローバルな規模でビジネスを行うIT企業とメディア・コングロマリットは、エンタテインメント産業を一つの方向に向かわせようとしている。それは、いわば「ロングテール」と「モンスターヘッド」が二極化した世界だ。
リリースされる楽曲、市場に投下される作品の数は指数関数的に増え続ける。その一方で、ごく限られたトップスターが名声を独り占めし、「圧倒的勝者」として君臨する。そんな時代が、この先に訪れようとしている。
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