疑心暗鬼

昇格

福岡吉本初のテレビ番組「どっちもどっち博多っ子倶楽部」の初回収録を目前にして、番組メインMCのター坊が失踪。この緊急事態をどうするのか。誰がメインMCになり、他のメンバーのポジションはどうなるのか。自分はどこにどう据えられるのか。誰もが本当に知りたいのは、それだった。

 ぽっかりと空いたメインMC、ター坊の穴。

 初回放送分の収録まで、もう時間がない。
 このまま福岡吉本初のテレビ番組「どっちもどっち博多っ子倶楽部」は頓挫してしまうのか。

 僕は内心、それを願っていた。

 自分が出られないということもあったが、それ以上に、僕はディベート形式という、この番組の企画自体が、あまり好きになれなかった。
 みんなの稽古風景をずっと見学していた僕からすれば、本当に申し訳ないけれど、みんなの討論がそこまで面白いとは思えなかったし、こんなチャンスを作ってくれた事務所やテレビ局には顔向けできないけれど、この番組が巷で話題の人気番組になるなんて、そんな期待は微塵たりとも感じなかったのだ。


 笑っていいとも!の人気コーナー「ウェルトーク」がモチーフになっているとはいえ、ひとつの議題でオモシロおかしく討論するには、芸人として相当の腕が必要だ。
 もちろん、それは所長の吉田さんやテレビ局の人から言われていたが、連日稽古に立ち会っているうちに、みんなを俯瞰で眺めているうちに、それと同じくらい、こういう企画の場合だと演者には多様性が求められるという、そんな根本的な部分に、僕は割と早い段階で気がついた。


 番組に参加させてもらえない僕が口にする資格はないし、あったとしても到底言えなかったけど、ウェルトークにはタモリさんを中心に旬のアイドルや人気の若手芸人、スペシャルゲストの女優さんや俳優さんが参加していた。
 幅広い世代の男女が、しかもお馴染みの有名人同士が、ひとつのお題に対して様々な価値観を、確固たる技術でぶつけ合ったからこそ、ウェルトークはお昼の人気コーナーとして成立していたのだろう。

 しかし、稽古場で繰り広げられる福岡版のウェルトークは、芸人としてまだまだ頼りない福岡芸人だけで繰り広げられていたから、まず会話の展開が乏しかった。
 しかしそれは、何度も何度も稽古を重ねて、吉田さんやテレビ局の人から執拗に手直しをされていたから、ある程度のカタチにはなっていたように思う。
 一介の見学者として、それよりも問題に思えたのは、みんなハタチそこそこの、ほぼ同じ地域と環境で育った男だけだったから、ディベートにおいて一番大事な「価値観」に大差がないことだった。

「もっと色んな角度から、物事を見なアカンで!」

 そう叱咤激励されたところで、第1回目の討論テーマは「女性に履いてもらうなら、プリーツスカートとフレアスカート、さあどっち?」である。

 吉田さんから
「たとえば高校の制服やったらどっちがええねん?」
 と問い詰められたところで、そもそもの違いがわからない。
 プリーツスカートとフレアスカートに何の思い入れもなく、ましてやみんな同世代の男子だから、高校の制服に対する思い出も似たり寄ったりで、トークは一向に弾まない。
 テレビ局の人から「じゃあ彼女に履いてもらうならどっちがいい?」と聞かれても、プリーツスカートとフレアスカートの差に興味がないというか、僕を含む福岡芸人全員が、女性のスカートに大したこだわりを持っていなかった。

 そこで、見かねた吉田さんやテレビ局の人が色々なアイディアを出してくれるのだが、僕らよりも年上の世代、たとえば30代や40代になると、女子高生の制服や女性のスカートに対する思いが強くなるのか、福岡芸人よりも饒舌に、様々なアイディアを全員で出してくれた。
 僕たちにとっては都合の悪いことに、スタッフさんや吉田さんだと、このお題でもそこそこに盛り上がるのだ。
 しかし、じゃあこんな感じでと稽古が再開されても、これが福岡芸人だけになると、やっぱり討論は上手くいかない。
 その度に色々なアイディアが提示され、それを参考にみんな必死で稽古を続ていたが、それは討論というよりも、精彩に欠ける小競り合いの繰り返しで、それをずっと見ているだけの僕は、心配や嫉妬を通り越して退屈に思えるほど、毎日の稽古場は煮詰まっていた。


 このままでは尻すぼみの討論会が永遠に続いてしまう。
 そこでいつの日からか、討論の台詞というか、ディベートの切り口は制作サイドから指定されるようになった。
 吉田さんやテレビ局の人の意見をそのままぶつけ合って様子を見るような、それぞれが誰かの代弁者になるような、そんなスタイルの稽古が始まったのだ。


 仕方のないことだと思う。

 出来ないんだから、これしか方法がない。

 そして、今なら、わかるのだ。


 興味がないとか、知らないとか、そんなことは言い訳にならない。
 どんなお題からでも、人とは違う何かを見つけ出すのが芸人なのだ。
 この才能というか技術というか、とにかく、人とは違うポイントを独自に見つけて、その面白さを提示するということは、芸人を名乗る最低限の条件だろう。


 そんな基本を知らなかった僕は。

 まだ芸人になれていなかった僕は。


 まるで操り人形のように、吉田さんが言った事と同じ事を言わされる華丸を見て、スタッフの誰かが口にした切り口でプリーツスカートとフレアスカートの優劣を競うコンバットやひらい、稽古に参加させてもらえるようになったケン坊を見て、制作サイドの顔色を伺いながら必死で言葉を繋げるター坊を見て、そんな光景を稽古場の片隅から毎日毎日、ひとりでずっと見ていて。


 ある瞬間、強烈に醒めてしまった。

 これがテレビなの?

 テレビって、こうやって作るの?

 東京は違うよね?

 でも福岡だと、こうなるの?


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疑心暗鬼

博多大吉

「どうして芸人になろうと思ったんですか?」一番多く投げかけられたこの質問に、いつも心の中で聞き返す。「どうしてみんな、芸人になろうと思わなかったんですか?」ーー時はバブルまっただ中。福岡の片隅で、時代の高揚感に背中を押された少年が抱い...もっと読む

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コメント

jimicauty やっと更新。あの番組の陰に大吉先生はじめ博多芸人の苦悩があったんやなぁ… 2年以上前 replyretweetfavorite

NZRosebud ひらきさんしんがひらい三振になってるのって前はそうだったのかな?それとも間違ってるのかわざと変えてるのか。 2年以上前 replyretweetfavorite

ai151tuya https://t.co/roFhEo3Ne7 2年以上前 replyretweetfavorite

maki_shampoo 待ってた更新通知が来た(*^▽^*) 仕事終わってからゆっくり読もう。 2年以上前 replyretweetfavorite