広告代理店に、こういうキャラクターは本当にいる
落合陽一(以下、落合) 僕、『左ききのエレン』大好きなんですよ。超エモい。人物描写が的確で、主人公のひとり、光一が広告代理店の若手デザイナーとして奮闘する第3章「不夜城の兵隊編」(15話〜19話)を読んでると、「こういう人、いるいる!」ってすごく思うんです。
かっぴーさんって、もともと代理店に勤めてたんですか?
かっぴー そうですね、前職はIT企業でプランナーをしていたんですが、その一つ前はまさに広告代理店に勤めていました。
落合 もともとコピーライター志望だった敏腕営業の流川は博報堂にいそうだし、流川の上司の演歌歌手のタイアップをゴリ推してくる営業部長は、東急エージェンシーにいそう。人間捨てて成果出してるデザイナーの柳は、博報堂の社内クリエイターっぽい。光一の元上司のデキるクリエイティブディレクター・神谷は電通がつれてくるクリエイティブチームにいそうですよね。
かっぴー 電通内部ではなく(笑)。すごい、でもなんかわかります。
落合 僕は、数社の広告代理店と共同プロジェクトをやっています。だから、代理店の人をよく見るんです。そう考えると、圧倒的な絵の才能があるエレンみたいな人は、代理店にはいないんですよね。あと、そのマネージャーとなる光一の幼馴染のさゆりもいないな。
かっぴー さゆりみたいなタイプの人、意外と広告代理店にはいないですよね。
落合 さゆりは相当賢いから、現実だったらマッキンゼーとかにいそうなんですよね。
僕と妻の関係は、エレンとさゆりっぽいですね。日常のことが何にもできない僕のことを、なんとかしてくれる存在(笑)。キャラがみんな立っていて、魅力的ですよね。
かっぴー 自分が肯定できない人は出さない、という方針で描いてるんです。でもいまのところ、出てくる中で一番ダメなのは主人公のひとり、朝倉光一かもしれない。
落合 光一ね、柳にしごかれて使い物になったのはいいけど、イベントで「制作をする上で大切なことは?」と聞かれて「…雑音の排除です」はないわー(笑)(18話)
そういうのは23歳くらいで卒業してほしい。学生CGコンテストとかで、一人で賞とっちゃった学生とかが言いそう。
かっぴー 彼はクリエイター中二病なんです……(笑)。ちょっと回り道しすぎちゃったんですよね。
落合 でも、光一みたいな人は弊ラボにもたくさんいますよ。視野が狭くなってる研究室の光一に、「お前は、“オレ”のことでずいぶんと忙しそうだな」(1話)って言って読ませたい。
かっぴー (笑)。「うちのラボの光一」みたいな読み方をしてくれるの、すごくうれしいです。
エレン+柳÷2=落合陽一
落合 組織論としてみてもおもしろいんですよね。神谷みたいなタイプは、まわりに愛されるし成果も出せる。バランスがいい人です。柳みたいなタイプは、チームのボスにならないと成功しないんですよね。
性格の類型診断をすると、上司がいるとダメな人、上司がいたほうがいい人って明確にわかれるんですけど、光一は上司がいないとダメな典型ですね。ひとりじゃ、何をすればいいかわからないタイプ。
かっぴー わー、ほんとにそうです。
落合 逆に、上司がいたらダメな人が研究室に入ってくるときは、その人をどう扱うか迷います。
かっぴー どうするんですか?