絶妙のトリオ
ジョイント・インターナショナルは、秋葉原駅から歩いて10分ほど。大通りからひとつ路地を入った、こぢんまりしたパソコンショップだった。
店内には雑然とパーツや筐体やケーブルなど、初期のパソコン関連製品が積まれている。
その店の奥に、簡単な仕切りでつくられたパソコンルームがある。休憩できるテーブルとイスもあり、カップ麺や缶コーヒーの空き缶などが転がっていた。
1978年の、秋葉原に来るパソコン好きの若者たちのたまり場だ。
「ほんまやて! むっちゃ飛んだんや! 個人飛行に成功したんやで!」
手首にぐるぐる包帯を巻き、顔中に絆創膏を貼った西島が、得意げに喋っていた。
その横で、古畑徹が呆れた顔で聞いている。
ガリガリに痩せているうえに声も小さい。本当にガイコツが喋ってるみたいだ。
「ウソつかないでくださいよ。あんなオモチャで、飛べるわけないでしょ」
「なんで疑うねんな! こんな大ケガこさえて、ウソつくヤツおらんやろ!」
すぐ後ろで、背中を向けてパソコン作業している成田真子が、冷たく言い放った。
「ケガが個人飛行の証拠になるという論理は通りません。いつものように、お金がらみか女性トラブルでケンカしたか、不注意で階段から落ちたか、いずれかと思われます」
ロボットのオペレーターみたいな話し方をする女だな。西島は、さらに食ってかかる。
「ちゃうって! ほんまに空を飛んだんや! なあ優作、そやろ!? 鳥のように華麗に、自由自在に1時間ぐらい、すいすい飛んでたやんな!」
「ずいぶん盛りますね……」
成田がくるっと、こっちを向いた。
背が高く、丸メガネを掛けた無表情。けれど黒目の大きな瞳と、ノーメークの肌は美しい。きちっと結ばれた赤い唇が凛々しかった。笑えば、米倉涼子似のかなりの美人だろう。
「仮に飛行に成功したとして、自責の負傷であることに変わりはありません。同情の余地なし。業務への差し障りが出ないよう早急に完治されるよう要求します」
と言い放った。西島はむぐぐと口ごもり、黙ってしまった。
西島はかなり高いところから落下したというのに、奇跡的に軽傷だった。俺が落下地点に助けに行ったときも、痛がりながら「やった飛んだで!!」と大騒ぎしていた。
病院に連れて行ったあとに、ジョイントに連れてきた。
西島が社長の会社、アーキテクトのオフィスは南青山の雑居ビルにあった。そこには四菱電機、北芝、大木電機など国内パソコンメーカーの担当者たちが、商談のために、ひっきりなしに出入りしているという。