田中慎弥さんによる初の語り下ろし本は、「孤独論」というストレートなタイトルに、目を引きつけられる。
これは昨今ありそうでなかったテーマ。何しろ現在はインターネットがこの世を覆い、人はSNSのネタのために生き、いかなるときでも「つながって」いなければ人にあらずと言わんばかりの風潮。「ぼっち」でいることは全力で避けねばならず、最も忌み嫌われるのが孤独という状態だ。
そこに真っ向から斬り込もうというのだから恐れ入る。
それだけじゃない。組織に従属し甘んじているのを「奴隷状態」にあると喝破し、サブタイトルの通り、そこから「逃げよ、生きよ」と鼓舞する。なんと反時代的なことか。
これらの過激な言葉、いったいどこからきたのだろうか。田中さんの胸中にいつも渦巻いていたものだったのか。
「これまでの半生で、人よりも孤独な時間を長く過ごしてきたのは自覚しています。兄弟はおらず一人っ子で、父を早くに亡くして家族が少なかったので、子どものころからわりと独りでいることは多かった。
外で遊ぶより家で本を読んだりするのが好きで、友だちも少なかった。その延長で、今も作家という仕事をしているようなものです。自分の場合、孤独だった時間が今の仕事に確実に結びついているのだから、孤独を否定するわけにはいきません。いえ、むしろ孤独の効用を語るべきだと思ったのです」
群れたがる、つながりたがる生き方には、あまり共感できないということ?
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