あらためて、天皇陛下の「譲位」問題を考える。

天皇陛下の「生前退位」を示唆する報道のあった昨年夏。8月には天皇陛下ご自身がお言葉を発表され、現在も「譲位」についての話し合いが行われています。この連載では、皇室問題のスペシャリストである所功さんが、昨年夏の報道と、「天皇陛下のお言葉」の真意を読み解きながら、なぜ「譲位」が必要なのか、そのためにはどうすればいいのか、わかりやすく解説していきます。

第1回目は、NHKの報道を受けての、当時の国民と有識者の反応とその隔たりを検証します。

すべては昨年夏のNHKの報道からはじまった

国民の9割が「譲位」に賛成

 今上陛下が「生前退位のご意向」を示しておられることは、昨年7月13日夜、NHKテレビから特報されました。それを承けて「宮内庁の関係者」などから裏付けをとった有力な新聞各紙は、翌14日の朝刊で一面のトップに「天皇陛下、生前退位の意向」などという大見出しを打ち、かなり詳しい解説記事や識者のコメントを載せています(テレビ各局も同様)。

 たとえば、首都圏をカバーする「東京新聞」は、「社説」で「お気持ちを尊重したい」という題を掲げ、「天皇陛下は……高齢となった今も……憲法に定められた〝国民統合の象徴〞としての役目を、誠実かつ精力的に果たされている」「天皇陛下が摂政ではなく、生前退位の意向を示されたのは、国事行為や公務(公的行為)は、天皇自ら行うべきだとの強い気持と推察する」「生前退位は……典範改正が必要になる。国会での落ち着いた環境での慎重な議論が必要となろう。」と的確に評論しています。

 ただ、ある通信社が15日夕方ころ流したニュースでは「天皇陛下、早期退位想定せず—公務〝このペースで臨む〞」ことが「政府関係者への取材で分かった」などと報じたせいか、それで動揺したマスコミも少なくありません。

 しかし、その一両日中に行われた世論調査の結果をみると、ほとんど9割近い一般国民が、NHKの第一報や有力各紙の記事を信用し、今上陛下の「生前退位」に賛意を示しています。また、数日中に収録され掲載された「街の声」や投書をみても、好意的な意見が大多数です。それは、1ヶ月近く経った8月8日、ビデオ中継による「お言葉」を視聴してから一段と強まり、その後も、大きく変わっておりません。

皇室を尊崇する保守的な識者から異論

 ところが、かねてから皇室を崇敬し尊重する論を張ってきた保守的な識者が、なぜか「生前退位の御意向」に異を唱えています。

 たとえば、長らく日本会議の副会長を務めてきた小堀桂一郎氏(東京大学名誉教授)は、「産経新聞」の取材に応えた談話記事(7月16日朝刊)の中で、「日本の天皇は……国家元首として在位して頂くだけで、国家にとって十分の意味を有する存在なのである。」「天皇の生前御退位を可とする如き前例を今敢えて作る事は、事実上の国体の破壊に繋がるのではないかとの危惧は深刻である。」と、いたく憂慮されています。

 また、改憲問題に熱心な憲法学者の百地章氏(国士舘大大学院客員教授)は、雑誌『SAPIO』9月号(8月4日発売)に書かれた「あえて〝生前退位〞に反対する」という題の評論で「仮にそれらが陛下のご意思だったとしても……あくまで私的なご発言であって……国会や内閣が直接、法的に拘束されるのではない。」とか「退位についての自由意思が許されることになれば……恣意(わがままな気持)が介在してくる危惧性が生じてくる。」などと、将来を懸念されています(8月以後、少し変化しています)。

 さらに、右の両氏と同じく皇統の男系継承を強調する渡部昇一氏(上智大学名誉教授)は、雑誌『WiLL』9月号(7月26日発売)に「緊急寄稿」された「摂政を置いて万世一系を」と題する口述筆記で、「日本の皇室は神武天皇以来、二千六百年以上もの歴史がある。……このような皇室の歴史を何の問題もなく継続させることができるのは、摂政という身近な制度です。」とし、かなり史実から飛躍した思い込みの主張を展開されています(この論旨は、8月以降も全く変わっていません)。

 このような論者は、他にも少なくないようです。そこにほぼ共通してみられるのは、NHKの第一報などで知りえた「生前退位のご意向」よりも、自分自身の天皇観・皇室像に重きを置いて、持論を曲げない信念です。それは一見ご立派なのかもしれません。しかし、それだけにとらわれず、報道された全文と関連の資料を、可能な限り正確に読み解く必要があります。その上で、どうすることが妥当であり、当面どこまで可能かを真剣に考えることが、より重要だと思われます。

(PHOTO: AP/アフロ)

皇室問題の第一人者が、天皇陛下の「生前退位」問題を徹底的に解明

この連載について

象徴天皇「高齢譲位」の真相

所功

天皇陛下の「生前退位」を示唆する報道のあった昨年夏。8月には天皇陛下ご自身がお言葉を発表され、現在も「譲位」についての話し合いが行われています。この連載では、皇室問題のスペシャリストが、昨年夏の報道と、「天皇のお言葉」の真意を読み解き...もっと読む

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tomatoma1700 今日からcakesで連載がはじまります。第1章「生前退位のご意向を読み解く」と、第2章「天皇陛下のお言葉を読み解く」を、毎週火曜と金曜更新していきます。よろしくお願いします。|所功| 3年以上前 replyretweetfavorite