上流階級文化は消えるのか?「貴族」が抱える深刻な悩み

山内マリコさんの『あのこは貴族』発売を記念して行われた鼎談は最終回。庶民では理解の及ばない、上流階級の人たちを悩ませる深刻な問題とはなんでしょうか?
※「すべてのニュースは賞味期限切れである」は今回が最終回です。連載開始から三年間、ご愛読本当にありがとうございました。

金持ちはどんな車に乗るのか?

山内マリコ(以下、山内) 前回車の話をしましたけど、車といえば速水さんにはリアルな金持ちが乗る車について、アドバイスをいただきましたね。

速水健朗(以下、速水) 実は『あのこは貴族』がcakesに載っていた時点では、超金持ち設定の登場人物が乗っていたのが、アルファロメオのミトだった。


あのこは貴族(集英社)

おぐらりゅうじ(以下、おぐら) 速水さんの愛車じゃないですか。

速水 だから、それは違うよって、すぐ本人にLINEした。

山内 私が知っている中で、一番いい車に乗っているのが速水さんだったから、そのまま書いちゃって……。

速水 アルファロメオとはいっても、所詮はプリウスよりも安い車だから。医者とかお嬢さんが乗る車じゃないんだよ。ちなみに、小説の中で、医者の次女が乗る車は、その後ポルシェのマカンになった。我が愛車の2倍以上。

山内 他にも、ゲラになった時点で、お金持ちの知り合いに送って読んでもらったら、「ミトからレクサスに乗り換える」っていうところで「レクサスなんておじさんくさい車に乗るわけない!」という辛口なコメントをいただきまして……。それで速水さんに登場人物のプロフィールを送り、「こういう人はどんな車に乗るのでしょうか?」と、助けを求めました。

速水 そのプロフィールは、生まれも育ちもよくて、ゴルフが好きな弁護士。でも、いけ好かない奴ではなくて、性格はいい。そんな彼がスポーツカー以外なら何に乗るかっていう相談だった。ポルシェとかジャガーでもなく、マセラティでもちょっと成金過ぎるかなみたいな試行錯誤をした上で、出した答えがレンジローバー。ランドローバー社のフラッグシップモデルね。イギリスのメーカーだし、狩猟をやるような貴族の人たちが乗るみたいな意味でも、これかなって。

山内 私も検索してレンジローバーの車体を見たとき、「これだ!」と思いました。

速水 本当に?(笑)

山内 本当に!

金持ちを悩ませる「相続税」問題

速水 『あのこは貴族』には、老舗の高級ホテルの話がよく出てくるよね。

山内 真のお金持ちは、普段からホテルをすごく気軽に使っているんです。とくにホテルの中にあるバーとかラウンジを、コメダ珈琲かファミレスくらいの感覚で使ってる。

速水 編集者にとって、ホテルのバーやラウンジは、大御所作家との打ち合わせで使う場所でもある。赤川次郎先生はここ、北方謙三先生はあそこって感じで、みんな行きつけがあるから。小説では、物語のキーとしてホテルオークラが登場するよね。

山内 それには理由があって、去年の8月に本館が取り壊されちゃったんです。ホテルオークラを建てたのは大倉財閥の二代目・大倉喜七郎。彼は戦後、復興して一流の国になるは、まず一流のホテルがなくちゃって、日本という国のためを思い、自分の土地を使って、自腹で建てたんです。そんなホテルオークラの本館という、上流階級御用達で、日本の精神を感じる素敵な場所が、オリンピックを理由に壊されてしまった……。これにはすごい意味があると私は思っているので、一つの時代が終わる象徴として出しました。

おぐら かっこいい!

山内 かっこいいでしょ(笑)。で、ここから一瞬シャネルの話していい? 19世紀末に出てきたココ・シャネルは、貧しい家の出身だったけど、上流階級とパイプができたことでファッションの才能を伸ばしていった人なんです。

速水 最初は帽子屋さんだよね。

山内 そうです。シャネルが上流階級の人たちと関わるようになった時に、彼女の男らしい格好は、まわりから珍奇なものだと見られていて。一方で、シャネル本人は、コルセットを巻いてドレスを着て、大きな帽子に傘をさしてる貴夫人たちを見て「わたしは19世紀の喪に立ち会っているのだ。ひとつの時代が終わろうとしていた」という名言を残しています。

おぐら 文化とともに、時代が終わる感覚。

山内 私もそういうシャネルの視点を意識して、もしかして今って、ホテルオークラに象徴される「東京の上流階級文化」が終わる時なんじゃないかなって。たぶん、もう末期なんですよ。

速水 どうしてそう思うの?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

あのこは貴族

山内 マリコ
集英社
2016-11-25

この連載について

初回を読む
すべてのニュースは賞味期限切れである

おぐらりゅうじ /速水健朗

政治、経済、文化、食など、さまざまジャンルを独特な視線で切り取る速水健朗さんと、『TVブロス』編集部員としてとがった企画を打ち出し、テレビの放送作家としても活躍するおぐらりゅうじさん。この気鋭のふたりのライターが、世の中のニュースを好...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

oguraryuji 冒頭のリード文にさらっと書いてありますが、ケイクスの連載は今回で最終回です。2014年の2月にはじまり、これまで配信された記事は106本。3年間ありがとうございました。|速水健朗×おぐらりゅうじ| 2年以上前 replyretweetfavorite

oguraryuji 学生時代ヴィレッジヴァンガードにお金持ちを連れて行ったら、すすめた漫画もCDも全部買って(5万円くらい)いつの間にか向こうのほうがカルチャーに詳しくなっていた話など|速水健朗/おぐらりゅうじ| 2年以上前 replyretweetfavorite

bear_yoshi おぐらさんの、お金持ちの友人をヴィレヴァンにはじめて連れて行ったら、自分のおすすめするものを数万円全部躊躇なく買って、1年もしないうちに友人の方がカルチャーに詳しくなってたって話、なんか、すごく心臓にくる。 / https://t.co/qLP8xxy3gU 2年以上前 replyretweetfavorite

bear_yoshi 「もしかして今って、ホテルオークラに象徴される「東京の 2年以上前 replyretweetfavorite