笑いのカイブツ

その過去を、人に知られたら、恥ずかしすぎて死ぬ。

27歳、童貞、無職、全財産0円。笑いに狂った青年が、世界と正面衝突!〝伝説のハガキ職人〟による、心臓をぶっ叩く青春私小説『笑いのカイブツ』(本日2/16発売)の番外編、第3弾をお届けします。

先輩と別れた帰り道、先輩が最後にした、あの質問を思い出した。

「おまえ、高校卒業したん、3月やろ?
このバイトに入ってきたん6月やん?
それまでの間、何をやってたん?」

高校を卒業してからの3ヶ月の間は、
僕の人生で、最大の黒歴史だった。

その過去を、
人に知られたら、
恥ずかしすぎて死ぬ。

肉体労働を始める前の空白の3ヶ月。
僕は、カート・コバーンと、まったく同じ髪型にして、
カート・コバーンとまったく同じファッションをして、
特に目的もなく、アメリカ村を、ただ毎日うろついていた。

僕は伝説のロックスターに憧れていた。
カート・コバーンのような伝説になりたかった。
外見を真似すれば、その伝説に、少しでも近づけるような気がしていた。

伝説になるのは、そんな簡単なことではなかった。

彼のように、27歳で、自殺する。
それだけを心に決めていた人生だった。
狂った人間のフリをしている、どうしようもない、ただの凡人だった。

映画を撮るならどんな映画を作るか?と、頭の中で想像していた映画は、ハーモニー・コリンの『ガンモ』で、既にやられていた。

高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』や、『ジョンレノン対火星人』に、もろに影響された後、『アナルセックス宇宙』という小説を書いて、群像新人文学賞に送るも、一次選考にすら残らなかった。

家でギターを毎日、10時間引き続けたけど、一向に上達せず、
ただ、指の皮がめくれただけで終わった。
最終的に、ぶちギレて、ギターをベランダから投げ捨ててぶっ壊した。

ただただ、自分が凡人だということが、証明された3ヶ月間だった。
何かになりたかったけど、何者にもなれなかった。

ずっと、自分の可能性を探し続けていた。
何をすればいいかを、探し続けていた。
頭の中で浮かんだボケを、アメリカ村で、大声でわめいた。

警察に職質されて終わった。


27歳で自殺した、カート・コバーンの遺書の最後には、こう書かれていた。

「だんだん消えていくくらいなら、一気に燃えつきた方がマシだ」

僕も必ず、そんな風に生きて、
27歳で死ななければならない。
27歳まで、残り9年か。

「僕が、27歳になった時、
死ぬ間際に書く遺書には、どんなことを書くんだろう?」

必ず、カート・コバーンを超えるような遺書を、書いてやる。
18歳の僕は、そんなことを思いながら、帰路に着いた。


その連載が始まったのは、27歳の時だった。
それは、10万文字にもおよぶ、僕の遺書だった。

打ち切られないように死に物狂いで書き続けた。
そして、連載が終わる頃、僕は、なる予定がなかった、28歳になっていた。

その時、
「アレ? 27歳で死ぬはずじゃなかったのか?」と思ったのだけれど、
僕は死ぬのが怖くないんじゃなくて、
生きるのが怖いだけだったことに遺書を書きながら気づいた。

その頃にはもう、
どんなにダサくなっても、
どんなに、みじめで、ぶさまで、みっともなくても、
生きることにしがみつくことの方が、
そんな生き様の方が、
人の心を揺らすことができる、
そう思うようになっていた。


反響続々、公式サイトできました。


『笑いのカイブツ』2/16 公式

出版社からの書籍化希望が殺到した青春私小説の傑作。cakesの連載を大幅に加筆し、ついに書籍化!

笑いのカイブツ

ツチヤ タカユキ
文藝春秋
2017-02-16

この連載について

初回を読む
笑いのカイブツ

ツチヤタカユキ

他を圧倒する量と質、そして「人間関係不得意」で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキさん、二七歳、童貞、無職。その孤独にして熱狂的な笑いへの道ゆきが、いま紐解かれます。人間であることをはみ出してしまった「カイブツ」はどこへ行くのでし...もっと読む

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コメント

seri_hkd_kgw_os 私も生きることにしがみついていけるのだろうか  2ヶ月前 replyretweetfavorite

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