パ——ン。
今の音は何の音だ?
巨大なシャボン玉が割れる音。
耳の鼓膜が破れる音。
眼球が破裂する音。
それは人間が、地面とぶつかった時の衝突音だった。
後ろを振り返る。
地べたにうずくまる男が、
カフカの『変身』の巨大な虫みたいに見えた。
18歳の時、肉体労働をしてたら、上で作業してた先輩が、落下してきた。
上を見上げると、真夏の直射日光が、眼球をしびれさせた。
ビルでいうと3階くらいの高さに、足場が組んである。
朝は自分が作業していた持ち場。
落下していたのは、自分だったのかもしれないと思うと、足が震えた。
「ツチヤ、おまえ、アイツの分も働いてくれ」
僕はその日、夕方までのシフトだったが、
病院に運ばれていった先輩の代わりに、
夜まで働くことになった。
帰る時に、足に包帯を巻いた先輩が、バイトの休憩室に現れた。
3階から落下したのに、奇跡的に大事に至らずに、済んだらしい。
金髪で強面なその先輩に、へたに話しかけたらしばかれると思って、
僕はそれまで避けていた。
その先輩から僕に話かけてきた。