錬金

世界を席巻し、PC史のエポックとなった伝説の日本人

俺がタイムスリップする先は、1978年の秋葉原。まずは、21歳の西島和彦に接触しなければいけない。西島は当時、若くして出版社を興し、日本最初のパソコン雑誌を創刊。その後、西島を中心とした創業メンバーたちは雑誌を足がかりに、PC事業に進出。やがて国内外を席巻していくことになる。彼らはどうやって瞬く間に登りつめたのか――。
ホリエモンが贈る、感動のタイムスリップ青春小説!書籍『錬金』を、発売に先駆け特別先行掲載いたします。

タイムトラベラー

 写真の年代は1978年。オッサンが知り合いを通じて手に入れた写真だという。

 4人の後ろには旧型のパソコン、むきだしのマザーボードにCPU、トランジスタなどコンピューター部品がびっしり並んでいる。かなり昔のパソコンショップだ。

 オッサンが写真を見せたまま言う。

「優作がタイムスリップして、この時代に行くのと、由里子が消えた”因果”は同期している。その関連性を突き止めて、時間軸を正せば、由里子の存在はリカバーできる」

 理論的には、そういうことになるだろう。

 しかし──。

「でも、もし1978年だかに、俺が飛ばなかったら? 由里子が消える”因果”そのものを、ないことにできるんじゃないか」

「理屈としてはあり得るけれど、いまここに優作の写っている写真が残っている。つまりお前が、タイムスリップする事実は変わっていない」

 俺は拳を、軽く握りしめた。

「何があろうと、俺は飛ぶしかないってことか」

 オッサンはソファに背中をあずけて、片手を背もたれに投げ出した。

「お前は適応できる。必ず」

 そして口の端を上げた。

「人類初のタイムトラベルも、うまくやり遂げられる男だ。そう信じている」

 腹の底が読めない男だが、俺はこの男に褒められるのを、やはり嫌がれない。

 次のひと言で、俺の覚悟は決まった。

「妹を取りもどしてくれ。お前にしかできない」


 オッサンから詳しく教えられた。

 写真は1978年、秋葉原にあったパソコンショップ「ジョイント・インターナショナル」のなかで撮られたものだという。

 4人の若者の左端は、俺。

 その俺に肩を組んで、破顔一笑という表現がぴったりのゲラ笑い顔をしている男が、西島和彦だ。

 当時の若者らしい、ゆるいカーブの長髪だ。長い前髪のせいで少し目元が隠れている。

 西島の隣は、彼の後輩の古畑徹。

 イガグリ頭で首までシャツのボタンを閉めている。びっくりするほど痩せていて、骨ばったピースサインをしているけれど、生きたガイコツが笑っているみたいだ。

 4人の一番右に立っているのは、成田真子。

 ジョン・レノンタイプのメガネをかけた、前髪パッツンの「麗子像」と同じ髪型の女性だ。背が高く、俺と同じかそれ以上あるっぽい。直立不動の立ち姿で、まったく感情のない目を、こっちに向けている。不機嫌なのか何なのか、それ以外に表情を知らないという感じだ。

 この写真が撮られる少し前、西島が社長、古畑が副社長、成田が取締役専務となり、資本金300万円で出版社・アーキテクトを創業した。そして日本最初のパソコン雑誌「ARCHITECT」を創刊した。

 西島を中心とした彼らは、日本だけでなく世界のパソコンの歴史のアウトラインを作った、IT革命以前の重要人物だという。

 西島の名前ぐらいは、俺も起業家時代に少し聞いたことがある。俺が活躍していた時代には、もう第一線を退いていたようだが、ITの歴史を語る上では、伝説的な人物だったらしい。

 その伝説の始まる前の時代に、西島本人と関わらなければいけないとは。

 俺の人生はいつも、思いがけない奇妙な縁が、勝手にやって来る。

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この連載について

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錬金

堀江貴文

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tipi012011 何故か戦隊もののゴーバスターズを思い出した。 約1ヶ月前 replyretweetfavorite