タイムトラベラー
写真の年代は1978年。オッサンが知り合いを通じて手に入れた写真だという。
4人の後ろには旧型のパソコン、むきだしのマザーボードにCPU、トランジスタなどコンピューター部品がびっしり並んでいる。かなり昔のパソコンショップだ。
オッサンが写真を見せたまま言う。
「優作がタイムスリップして、この時代に行くのと、由里子が消えた”因果”は同期している。その関連性を突き止めて、時間軸を正せば、由里子の存在はリカバーできる」
理論的には、そういうことになるだろう。
しかし──。
「でも、もし1978年だかに、俺が飛ばなかったら? 由里子が消える”因果”そのものを、ないことにできるんじゃないか」
「理屈としてはあり得るけれど、いまここに優作の写っている写真が残っている。つまりお前が、タイムスリップする事実は変わっていない」
俺は拳を、軽く握りしめた。
「何があろうと、俺は飛ぶしかないってことか」
オッサンはソファに背中をあずけて、片手を背もたれに投げ出した。
「お前は適応できる。必ず」
そして口の端を上げた。
「人類初のタイムトラベルも、うまくやり遂げられる男だ。そう信じている」
腹の底が読めない男だが、俺はこの男に褒められるのを、やはり嫌がれない。
次のひと言で、俺の覚悟は決まった。
「妹を取りもどしてくれ。お前にしかできない」
オッサンから詳しく教えられた。
写真は1978年、秋葉原にあったパソコンショップ「ジョイント・インターナショナル」のなかで撮られたものだという。
4人の若者の左端は、俺。
その俺に肩を組んで、破顔一笑という表現がぴったりのゲラ笑い顔をしている男が、西島和彦だ。
当時の若者らしい、ゆるいカーブの長髪だ。長い前髪のせいで少し目元が隠れている。
西島の隣は、彼の後輩の古畑徹。
イガグリ頭で首までシャツのボタンを閉めている。びっくりするほど痩せていて、骨ばったピースサインをしているけれど、生きたガイコツが笑っているみたいだ。
4人の一番右に立っているのは、成田真子。
ジョン・レノンタイプのメガネをかけた、前髪パッツンの「麗子像」と同じ髪型の女性だ。背が高く、俺と同じかそれ以上あるっぽい。直立不動の立ち姿で、まったく感情のない目を、こっちに向けている。不機嫌なのか何なのか、それ以外に表情を知らないという感じだ。
この写真が撮られる少し前、西島が社長、古畑が副社長、成田が取締役専務となり、資本金300万円で出版社・アーキテクトを創業した。そして日本最初のパソコン雑誌「ARCHITECT」を創刊した。
西島を中心とした彼らは、日本だけでなく世界のパソコンの歴史のアウトラインを作った、IT革命以前の重要人物だという。
西島の名前ぐらいは、俺も起業家時代に少し聞いたことがある。俺が活躍していた時代には、もう第一線を退いていたようだが、ITの歴史を語る上では、伝説的な人物だったらしい。
その伝説の始まる前の時代に、西島本人と関わらなければいけないとは。
俺の人生はいつも、思いがけない奇妙な縁が、勝手にやって来る。