【くるみ】8月12日 金曜日
「今度二人で飲みに行こうよ」
隆史とはそう約束して本日に至っているわけだが、なぜかくるみは外で飲食することなく、彼の部屋にいた。
「ごめんね、もうすぐ仕事終わるから」
彼はそう言ってノートPCのキーボードをカタカタとせわしくタイプする。
「ぜんぜん大丈夫ですよ」
内心ではアリエナイと思いながらくるみは笑顔を返す。
本当は外で飲む約束だったはずが「仕事が終わらないのでとりあえずうちに来ない?」と隆史から誘われたのである。
「家に行く=セックスする」というのは大人の世界では暗黙の了解だ。
だから正直彼の家に行くのは気が乗らなかった。
どいつもこいつもヤリたいだけか……。
LINEで送られてきた彼のマンションの住所、その道のりで、くるみの足取りはものすごく重たかった。それでも彼の誘いを断らなかったのは、くるみは男から求められることに大きな喜びを感じるからだ。特に好きでもない男であっても、自分のことを女として見てもらえると充実感でいっぱいになる。それがたとえ「ヤリ目」だとわかってはいても、くるみは男の誘いに乗らずにはいられないのであった。
しばらくの間、くだらないDVDを見ながら意味のない時間を過ごした。
「はい、えぇ。はい、わかりました。またよろしくお願いいたします」。隆史は一本の電話をかけ終えると、大きく伸びをした。どうやら仕事が終わったようだ。
「ごめんね〜。お腹空いたでしょう。ピザでも頼む?」
初めての二人きりの食事を宅配ピザですまそうとするなんて、ちょっとぞんざいすぎるのではないか。いつもは愛想よく振る舞うくるみだが、さすがに少し不機嫌な様子をしてみせた。
しかし横で一生懸命仕事をしてる姿を見ていただけに、これから外に飲みに行こうとは言えない雰囲気である。
まいっか、こんな日があっても、と思いながらくるみはうなずいた。
*
隆史とは、先日の神山が幹事だった時の合コンで出会った。くるみはその合コンで、カズヤという男に持ち帰られ一夜を過ごしているが、そんなことはまさか隆史には言わない。今日は今日で隆史と楽しく過ごそうと決めている。
「泊まってく?」
ピザを食べながらおしゃべりしていると、気づけば時刻は夜の11時を過ぎていた。大田区の彼の家から自宅に帰るには少し億劫になるような時間だ。座り心地のいいソファでくつろいでしまっているのも、外に出たくない気持ちに拍車をかけている。これは隆史の作戦だろうか?
まぁいいや。セックスを焦じらして本気にさせるほどの相手でもない。
ただし、男から軽い女だとは思われたくないくるみは、しばらく沈黙して考えるそぶりを見せてから渋々とうなずいた。
その後シャワーを浴びてくるよう促され、お互い清潔な状態でベッドインし、自然な流れで前戯が始まった。
途端、くるみは驚いた。
う、上手い!!
隆史は今までのどんな男も与えてくれなかったような極上の快楽をくるみにもたらした。さらに彼の肉体はほどよく筋肉がついていて、身体の感触も絶妙に心地よい。
くるみのテンションは一気に上がった。
仕事で遅くなって飲みに行けなかったことなんてもちろんチャラにしてあげるし、できればまたこの人とセックスしたい。
【くるみ・知恵】8月18日 木曜日
くるみと知恵は仕事の帰りに、恵比寿のエキナカにあるカフェバーで軽く飲んでいた。誘ったのは知恵だ。この前の神山との合コンの後、気になることがあったのだ。
知恵は早速くるみに切り出した。
「この前の隆史はどうだった? デートした?」
「うん、ヤッた。めっちゃ上手かったよ!」
くるみは正直に答える。
「え〜本当? すごいね」
「私、結構いろんな人とヤッてきたけど、そーとー上手い方だと思う。2番目? いや1番かもってくらい上手かったよ。またヤりたい」
「へー。………。実はさ、誰にも言わないでくれる?」
「うん、なになに?」
少し声のトーンを落とした知恵に、くるみは何事かと身を乗り出す。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。