韓国人のおばあさんを殴り「白人パワー!」と叫んで逃げた人の話(2017年)

前回、トランプ米大統領の名前が刻まれたハリウッド通りで見聞きして感じたことをリポートしてくれた牧村さん。今回は、帰国した今も頭から離れない、あるショッキングな出来事を振り返ります。

※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。

2~3日、人類をやめたい。

ハリネズミさんになりたい。

2017年のはずだが、「あれれ? ほんとに2017年かな?」と思うことが最近増えた。ぼくはもうつかれたのでハリネズミさんになりたい。ハリネズミさんになりたいなと思いながら原稿の締め切りを前に寝たんだけど、夢の中で自分はハリネズミさんではなく石原さとみさんになっていた。正味、楽しかった。人類として生きるのも悪くないかもしれない! と思ったので、逃げずに考えてみようと思う、なぜ人類をやめたいと思ったのかを。

たぶん、原因は「白人パワー!」だと思う。

2017年2月1日、私はロサンゼルスにいた。そこで見聞きし考えたことは前回の記事にも書いた通りだけれども、日本に戻ってきて総まとめをするならば、14日間の滞在中、私の知る限り2人殴られ3人刺され1人殺された。

殴られた人のうち1人は、83歳のおばあさんだった。

2月1日14時30分ごろ(現地時間)、83歳の韓国人女性が、27歳のアメリカ人女性に殴られた。殴られた韓国人女性は倒れ込み、頬に2.5cmほどの傷を負い、ひざを痛めた。

近隣住民が現地メディアのロサンゼルスタイムズに語ったところによると、加害者はおばあさんを殴ったあと、こう叫んでいたらしい。

「パワーはパワーだ! 白人パワー! ニガー(※黒人に対する蔑称)!!」

同様の証言が、リンダ・リーを名乗るfacebookアカウント、およびこの件を報じるWEBニュースへのコメント欄にも寄せられているようだ。また、「白人パワー!」と叫んでいるシーンはとらえられていないにしても、逃走する加害者の動画はYouTubeに掲載され40万回以上再生されている

その後、加害者は捕まった。警察に対し、加害者は「パティ・ガルシア」と言う名のホームレスであると名乗ったが、指紋から身元を照合した結果、「パティ・ガルシア」は偽名だということがわかった。ガルシアというのは、トランプ政権が悪者扱いしているメキシコ系移民にとても多い名字だ。いわばメキシコの山田とか田中とか鈴木にあたる。それを名乗ったということは、つまり彼女は、白人パワー!って叫びながら白人でない人を殴った上にその罪をメキシコ系移民にかぶせたかったらしいということになる。

闇すぎる。

その後、警察の取り調べにより、「白人パワー!って叫んだ証拠がない」「どうも加害者は酔ってたか精神的にまいっていたようだ」「よってこれはヘイトクライムではない」みたいな話になったらしい。(参考:http://www.ibtimes.com/white-power-korean-grandmother-attacked-los-angeles-left-bleeding-head-injuries-angry-2485918

私はその場にいなかったので、自称ガルシアさんが「白人パワー!」って言ったのか言ってないのかわからないが、それにしても、おばあさんを殴って「白人パワー!」とか叫んで逃げた上にメキシコ系移民の苗字を名乗ったやつがいた、みたいな話がこれだけ広まってしまうところに、今のアメリカの闇を感じる。

自称ガルシアさんは、本当は、アレクシス・デュヴァルという名前だったらしい。

デュヴァルというのは、フランスをルーツにアメリカで広まった苗字だ。なんて皮肉な話だろう。メキシコ系移民の名前「ガルシア」を名乗って罪をなすりつけようとした人の本当の名前は、「デュヴァル」—むかしむかしネイティブアメリカンの住んでいたアメリカ大陸に移民としてやってきた白人の名前だったのだ。

逃げていく自称ガルシアさんを映したYouTube動画にはこんなコメントがついていた。

「white pig(白ブタ、白人の豚が)」

それについた返信はこうだった。

「違う。こいつの名前は“白人の豚”じゃない。アレクシス・デュヴァルだ」

「白人パワー!」とかいまだに言ってる話は、これだけではないらしい。

“白人パワー(white power)”で検索してみると、こんな記事も出てくる。

・サンフランシスコの住民の車に、「お前は我らがトランプが建てる壁の向こうに放り投げられる最初のファッキン豆食い野郎(※beaner。メキシコ料理に豆が多いことに由来する、メキシコ系アメリカ人に対する蔑称)! 白人パワーだけがアメリカをもう一度グレートにするんだ!」とかいう張り紙が貼られる。ちなみに車の持ち主は別にメキシコ系じゃなくて、アメリカ生まれのペルー系アメリカ人だったというオチつき。
http://hoodline.com/2017/02/racist-white-power-note-left-on-noe-valley-resident-s-car

・フィラデルフィアの公道に、白スプレーで、ナチスのカギ十字と共に「白人パワー!」という落書きがなされる。ちなみに近隣では、ナチスのカギ十字と共に「ハイル・ヒトラー!」とも書かれた事件が起こっているが、その「ハイル・ヒトラー!」はつづりを間違えていたというオチつき。
http://www.app.com/story/news/crime/jersey-mayhem/...

両方、2017年の話である。

1861年とかじゃなくて。

2017年である。

めっちゃチョコ食った。

お茶を飲んでトイレに行った。手を洗うついでに鏡を見た。右頬に吹き出物が出そうになっていて、あーあと思った、自分の顔は、白人には見えない。

イエ~イ!

めっちゃアジアン!

眠っても、夢の中の私はハリネズミさんになるわけでもなく、ジェニファー・ロペスやハル・ベリーになるわけでもなく、石原さとみになる。たぶん東京メトロの車内広告をめっちゃ見て「は~ さとみ最高」ってなる東京ライフを生きているからだと思う。さとみかわいい。おでん食ってるさとみかわいい。おでん食ってるさとみを見上げるこの東京ライフ、めっちゃジャパニーズである。

私はなんて叫べばいいんだろう?

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ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

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yaesiro 「アレクシス・デュヴァル」なんて、超カッコいい名前なのにな…。絵師さんに「アレクシス・デュヴァル27歳アメリカ人女性をあなたのイメージで描いて下さい」と依頼すれば、絶対カッコよく描いてくれるのに(事実なら)やっている事がダメすぎる。https://t.co/SnImXOs63h 2年以上前 replyretweetfavorite

shiba710 “white power” 2年以上前 replyretweetfavorite

KasparSchmidt "「白人は横暴ねえ、日本人はこんなに謙虚なのに」みたいな雑な境界線に基づく他人事ヅラをしなかった自分の考え方が好きだ。人間である自分の考え方が好きだ。" https://t.co/cj5qo1CvOK 2年以上前 replyretweetfavorite

KasparSchmidt "つまり彼女は、白人パワー!って叫びながら白人でない人を殴った上にその罪をメキシコ系移民にかぶせたかったらしいということになる。" https://t.co/cj5qo1CvOK 2年以上前 replyretweetfavorite