23歳男性。生後一週間でマクローリン展開をする。四歳でハーヴァードに入学。六歳で数学の博士号を取る。二十歳で万物理論を完成させたのち、「コミュニケーション」の発明を行う古見宇発明研究所を設立する。
ニケ
32歳女性、千葉県出身。古見宇研究所助手。好きなものは竹輪とGINZA。嫌いなものはセリーヌ・ディオン。「宇宙の解」を知って絶望していた博士に「コミュニケーション」という難題を与え、結果的に古見宇研究所の設立に繋げる。
仕事中、私が引き出しに入れていた芋けんぴをこっそり食べていると、研究室から出てきた博士に「また間食かな」と指摘された。
「あ、すみません! つい食べちゃうんですよ」
「そうやってお菓子ばかり食べているからだと思うけど、最近ニケ君は太っているよね。体重も一ヶ月前から2キロほど増えているし——」
「——ど、どうしてそんなことを知ってるんですか!」
自分の体重が博士に知られていたとわかり、私は赤面した。
「研究所の入り口にある万能生体スキャナーだよ。体重だけじゃなくて体脂肪率も、生活習慣病も、ニケ君が出勤するたびに全部わかっているよ」
「プライバシーの侵害ですよ……」
「ちゃんと契約書に記載されていてるよ」
「そういう問題じゃないんです!」
「まあ事実なんだから仕方ないじゃないか。それよりもさ、ニケ君はダイエットするつもりあるの?」
「もちろんありますよ! でも、お腹が減るとついお菓子を食べちゃうんですよね……」
「そうか、ダイエットする『意志』があるなら話は早いね」
博士はそういって、背中から灰色のニット帽を取りだした。
「あ! もしかして、ダイエットができる発明品ですか?」
私はすぐに博士からニット帽をもぎとった。
「ちょ、ちょっと、あせらないでよ」
「このニット帽に、どんな機能があるんですか? 教えてください!」
「そのニット帽は、『電気ニット~意志野卓球とピエール欲~』という発明品さ」
「ずいぶん長い名前ですし、どこかで聞いたような……」
「ニケ君の期待と違って、そのニット帽は直接的にダイエットとは関係ない。一見ニット帽に見えるけど、特殊な通電繊維で編まれていて、かぶった人間の脳に作用するんだ。その結果、『意志』と『欲求』のパワーバランスが逆転する」
博士はまた、一般ウケしない頭でっかちのものを作ったのではないか、などと考えながら、一応「『意志と欲求のパワーバランスが逆転する』ってどういうことですか?」と聞いてみた。
「つまり、ニケ君は『ダイエットしたい』という意志を持っているけれど、『お菓子が食べたい』という欲求に負けて、『わかってはいるけど、ついつい芋けんぴを食べてしまう』という状態なんだよね」
「まさしくそうですね」
「ここでもし、意志と欲求のパワーバランスが逆転したら、どうなる?」
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