早く出たからって、よく育つとは限らない

無事に畑を耕し終えた農園で、金田さんはジャガイモ作りを始めます。タネイモの品種を決めたり、イギリス人のお隣さんの知恵を借りて“芽出し”をしたり。愛情をこめて育てたジャガイモは無事成長するでしょうか……?

いったい何が目覚めるわけ?

春の菜園シーズンは、ジャガイモの植えつけで開幕だ。2月も半ばを過ぎると、農園のメンバーはそわそわし始め、こんな質問が挨拶がわりになる。

「タネイモ買った?」「いつ植える?」「どこに植える?」「何キロ植える?」

1年目はジャガイモを植えそこねたが、2年目はぬかりがない。タネイモもすでに買ったぞ。男爵薯とメークインを、1キロずつ。男爵薯のタネイモは12個、メークインは9個入りだった。

「もっといろんな品種を植えないの? 『インカのめざめ』とかさ」

タネイモを買いに行ったホームセンターで、あれこれ手に取る夫に、私は首をふった。じつは、ジャガイモがさほど好きではない。

「男爵とメークインがあれば、事足りるよ」

ジャガイモの原産地はアンデスの高地だ。それにちなんで、「インカ」なのだろうが、いったい何が目覚めるのだ?

「インカのめざめは、栗みたいにおいしいんだって」

「だったら栗を食べるよ。ジャガイモはおやつにならないし、ごはんのおかずに炭水化物を食べる気にも、ならないんだよね」

「じゃあ、ジャガイモを主食にすれば?」

冗談やめて。ここはインカ帝国じゃないよ。

のちに育てた「インカのめざめ」のタネイモです。できるイモも小さめですが、たしかに栗のような味がします。

イギリスのステキな知恵

タネイモと向き合うのは、初めての経験だ。乾いて、しなびている。このイモがスーパーで売られていたら、ぜったいに買わない。ほんとうに子イモを作る力が備わっているのだろうか。

「タネイモは、“芽出し”をしておくといいよ」

隣の区画のN村さんが教えてくれた。

「暖かい窓辺に置いておくと、芽が出るんだ。それから植えつけると、発芽が早いんだよ」

「卵パックを使うといいぞ」と言ったのは、向かいの区画のミスターBだ。

「芽が出るまで、卵のパックにポテトを並べておくんだよ。イギリスではポピュラーなやり方なんだ」

「かわいい! それやる!」

にわかにタネイモに愛情がわいてきた。さっそく卵を買って帰り、卵はザルに移して、空いたパックにタネイモを並べる。

おかしいな。

「ぜんぜんかわいくないんだけど」

「イギリスのパックは、プラスチックじゃなくて紙製なんだよ」と夫が笑う。がっくりだ。

合計21個だから2パックじゃ足りないと3パック買ったのだが、1つのパックの上下で20個置けることにも、いまごろ気づいた。

「これから毎食、卵を食べるんだね」夫がいやみを言う。

つらいけど、問題はない。卵は、ごはんのおかずになる。

これは別の年の写真ですが、相変わらずプラスチックの卵パックに入っております。

超簡単! ジャガイモの作り方

3月中旬、ついに植えつけの日が来た。畑に運んだタネイモは、晴れの日を迎えて、どことなくシワがのびて見える。

せっかくなので、ジャガイモの作り方を、順を追って紹介しよう。ビギナーでも簡単に作れる野菜だ。

 畝に、10㎝ほどの溝を掘り、30㎝ほどの間隔をあけてタネイモを並べる。イモとイモの間に、肥料を置く。写真は、溝の中に先に肥料を置いた状態。

世の中には、「ジャガイモの肥料」という便利な肥料も売られています。うちは、夫が有機質の肥料をブレンドしています。

2 子孫繁栄を願いながら、土をかぶせて溝を埋める。水をやる必要はない。

タネイモに肥料がさわらないようにしましょう。タネイモが傷んでしまうことがあるからです。

3 やがて芽が出る。この時期 農園では、だれのジャガイモに芽が出たか、メンバーがチェックしている。「N村さんのジャガイモは芽が出たよ。金田さんちはまだだね」などといわれ、軽く落ち込むが、早く出たからといって、よく育つとは限らない。おっぱいの成長と同じだ。

やっと出ました。

4 芽はいくつも出る。のびてきたら、元気のよいものを2~3本を残して、あとは引き抜く。タネイモまで一緒に引き抜かないように注意。

たくさん出る芽をそのままにしておくと、イモが大きく育たないんです。

5 たまに肥料をやるが、水は雨まかせ。できたイモが地上に露出しないよう、ときどき根元に土を寄せる。

ジャガイモは、光に当たると表面が緑色になります。緑化したジャガイモは毒をもち、食べると食中毒をおこします。買ったイモも、光に当てないように保管しましょう。

6 やがて花が咲く。愛らしい花で、品種によって少しずつ違うのも楽しい。ジャガイモはかつて、花を観賞する植物だった。

男爵薯の花。男爵薯は、川田さんという男爵が日本に紹介したので、この名前があります。

メークインの花。イギリスの五月祭の女王にちなんで、名前がつきました。

7 そうこうするうちに、葉や茎がしおれてくる。それがイモのできあがりのサインだ。

3月半ばに植えつけて、6月半ばに収穫を迎えました。プランターでも作れるので、ぜひ挑戦してください。

衝撃の味

「イモはおもしろいなぁ」

ごろごろ出てくるジャガイモに、夫は大喜びだ。男爵薯は124個、メークインは113個。1個のタネイモが10個以上に増えた計算だ。

私も、まあうれしいけれど、これから237個ものジャガイモを食べるのかと思うと、正直気が滅入る。

サツマイモならいいのにな。

その日家に帰ると、ためしに男爵薯を茹でて、バターをぬって食べてみた。

驚いたなんてもんじゃない。やわらかで、ほろほろと崩れていく。私の知っているジャガイモとは、味も香りもレベルがまるで違っていた。

「掘りたてのジャガイモって、こんなにおいしいんだね」

「もうぼく、ジャガイモが主食でいい!」夫がまた言い出した。

この味なら続くかもしれない。この際しばらく、インカの民として暮らしてみようか。

その日から我が家では、ふかしイモやマッシュポテトが主食になった。 おいしい。たしかにおいしい。けれど3日目には、私の胃腸が訴え始めた。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
シロウト夫婦のズボラ菜園記

金田 妙

毎日、採れたての新鮮な野菜が食卓にのぼる。そんな生活に憧れる人は多いのではないでしょうか。自分で野菜を作れればよいけれど、畑はないし、仕事は忙しいし、週末は遊びたいし…。それでも、思いきって家庭菜園の世界に飛びこんでみたら、おもしろい...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません