新たな音楽スタイル「過圧縮ポップ」はいかにして生まれたか

BABYMETALが世界の音楽シーンにセンセーションを巻き起こしている最大の理由は「音楽性のユニークさ」にあります。いかにしてこうした「過圧縮ポップ」が生まれたのでしょうか?
音楽ジャーナリスト・柴那典さんがその実情と未来への指針を解き明かす話題書『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)。その内容を特別掲載します(毎週火曜・木曜更新)。

「ミクスチャー」から生まれた発明

 上田剛士のような「足し算」の発想が、なぜ日本の音楽シーン独特のものとなったのか。

 筆者は「ミクスチャー・ロック」という和製英語の普及にその一因があると考えている。

 ザ・マッド・カプセル・マーケッツがデビューした90年代は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなど、ロックにファンクやヒップホップを取り入れたスタイルのバンドがアメリカで脚光を浴びた時代だ。
 本国では「ファンク・メタル」や「ラップ・メタル」と称されたバンドたちが、日本では「ミクスチャー・ロック」という独自の呼称で紹介された。

 この言葉は、後続のミュージシャンたちにも大きな影響を与えた。彼らは「ミクスチャー・ロック」を拡大解釈した。ファンクやヒップホップだけでなく、様々なジャンルの音楽を果敢に「ミクスチャー」することが格好いい、クールだという美学が広まった。

 その代表が、マキシマム ザ ホルモンだ。パンク、ハードコア、スクリーモを基本にしながら、1曲の中でめまぐるしく展開が変化する曲調を大きな特徴とする彼ら。こうした音楽性について、すべての楽曲を手掛けるマキシマムザ亮君は、ビジュアル系バンドthe GazettEのボーカリスト・RUKIとの対談でこう語っている 。

「僕、好きな音楽が雑食で。各国のハードコアや各種メタル、レゲエ、メロコア、ファンクに昭和のアイドル歌謡曲や80年代アニソンまで。(中略)好きな音楽に罪はねぇ! って思いながらやりたい要素を全部やっちゃう! っていうのが、ホルモンなのかなって思います」(Va net「対談Vol.2 RUKI × マキシマムザ亮君」)

 こうした発想は、「ミクスチャー・ロック」というジャンル名が定着して以降の日本のロックバンドに特有のものと言っていいだろう。1曲の中にありとあらゆる音楽の要素を圧縮して混在させるようなスタイルが一つのスタンダードとなった。

 また、前述の対談でホストをつとめたRUKI率いるthe GazettEも、やはり「過剰な足し算」を行ってきたバンドだ。2002年に「ネオビジュアル系」の旗手としてデビューした彼らは、X JAPAN、L’Arc~en~Ciel、DIR EN GREYなど90年代以降に隆盛した「ビジュアル系」シーンの先達からの影響を「足し算」で組み合わせた。

 RUKIはインタビューで自分たちの音楽性をこう表現している。

「あのバンドのあの曲と、このバンドのこの曲、どっちもやってるバンドがあったらすげぇカッコいいなっていう。それだと思ってるんで、the GazettEっていうのは。いろんなものをドッキングさせて意味わかんないのをやっている」 (『CDでーた』2009年8月号)

 彼らもまた、アジア、ヨーロッパ、北米、中南米に熱狂的なファン層を抱え、海外に巨大な支持を広げるバンドだ。洋楽に対するコンプレックスを持たず、日本独自の「ビジュアル系」のシーンの中でガラパゴス的な進化を遂げたバンドがthe GazettEだった。

 そういう彼らが「これっぽっちも興味がなかった」(リアルサウンド「the GazettE『UNDYING』インタビュー」2016年5月2日更新)という海外進出を果たし、各国で熱狂を生み出しているのが10年代の状況だ。

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コメント

nijuusannmiri ここ面白い。「上田剛士のような「足し算」の発想が、なぜ日本の音楽シーン独特のものとなったのか。/筆者は「ミクスチャー・ロック」という和製英語の普及にその一因があると考えている」 8ヶ月前 replyretweetfavorite

nijuusannmiri この面白い。「上田剛士のような「足し算」の発想が、なぜ日本の音楽シーン独特のものとなったのか。/筆者は「ミクスチャー・ロック」という和製英語の普及にその一因があると考えている」 8ヶ月前 replyretweetfavorite

Making_noiz 『過圧縮ポップ』 https://t.co/qwqc2giqek https://t.co/DUKWoXpuiK #t_m_etc_ 9ヶ月前 replyretweetfavorite

xalt9x ガゼットに洋楽コンプがないかというと疑問だけどな…2007年からはヴィジュアル系の外とのミクスチャーに切り替わったと思うよ 9ヶ月前 replyretweetfavorite