言葉のタネ

大人の恋愛と音楽—福田進一×平野啓一郎

『マチネの終わりに』の著者、平野啓一郎さんと、同名でリリースされたタイアップCDで、クラシックギターを演奏した、世界的ギタリストの福田進一さんとの対談。後編は「音楽」と「言葉」の密接な関係について語っていきます。

「音楽を言葉にできる稀有な人なんですよ、福田さんは」

音という要素だけで紡がれていく音楽を、言葉によって表現する。それは想像するだに難しいことと思える。ところが平野さんは、『マチネの終わりに』はもとより、以前にもショパンを主人公に据えた『葬送』も書いており、その難しさに果敢に挑戦を続けている。

平野啓一郎(以下、平野) 今回、福田さんにいろいろとお話を伺えたことは得難い経験でした。福田さんは言葉が豊かで、雑談だけでも勉強になる。「うちに来て飲んでいただけなのによくこんなに細かく書けるね」とおっしゃっていただきますけど、何気ないお話のなかに、音楽についての大事なことが含まれているんですよ。
 ただ、音楽家ならみんなそうかといえば、おそらくそんなことはない。福田さんは主観的にも客観的にも、音楽を言葉にできる稀有な方なんですよ。

福田進一(以下、福田) 僕はイタリアのオスカー・ギリア先生の門下生なのですが、初めて会ったとたん先生は、「おまえは鈴木大拙を知っているか?」と僕に問いかけてこられた。続けて禅は理解しているか、侘び・寂びについてはどうだと言われて圧倒されました。音楽に対して言葉が与える影響をたいへん強調する人なのです。
 先生の影響で本はずいぶん読みました。だから、なんとか平野さんとも話ができる。平野さんはけっこう難しい単語を使われるから、分からないときもありますが(笑)、どうにかこうにかついていけるのは、先生のおかげです。

平野 音楽をめぐってコミュニケーションをとるときにも、話し合うには結局言葉を使いますからね。

福田 そうなんです。聴いたらわかるというのは、きれいごとに過ぎない。違う人間どうしが意思を通じ合わせるには言葉が必要で、そこに文学的なものの存在の大きさを感じます。

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山内宏泰

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コメント

sumire_iwa うっとり https://t.co/NifcXvtn4j 2年弱前 replyretweetfavorite

yagiutina |山内宏泰|cakes 福田 僕は伊のオスカー・ギリア先生の門下生なのですが、初めて会った途端先生は、「おまえは鈴木大拙を知っているか?」と僕に問いかけてこられた。禅は理解しているか、侘び・寂び https://t.co/7LZ9avrRCl 2年以上前 replyretweetfavorite

shokoku_junrei 『本を読んで直接的に演奏がうまくなるわけではないけれど、イマジネーションを刺激される体験は、日頃からもっとするべきなんですよ。』 2年以上前 replyretweetfavorite

reading_photo コラボCDは世にあれど、平野啓一郎さんの小説と福田進一さんの演奏という豪華さは他になし。CD聴きながら『マチネの終わりに』をも一度読みたい。小説は二読目以降が楽しい。 2年以上前 replyretweetfavorite