現在より過去が大事

絆という言葉がもてはやされている通り、現代社会は他者との繋がりをことさらに推奨します。一方で「孤独」は忌み嫌うべきものとして遠ざけられています。でも人は孤独から逃れることはできません。いっそのこと孤独を味方につけてみませんか。
大学受験の失敗を機に、以後十五年間、実家で引きこもり生活を送った田中慎弥さん。そのなかで悟った孤独の効用とは。芥川賞作家が語る、自分を取り戻すための人生論。
大反響の書籍『孤独論~逃げよ、生きよ~』を特別掲載いたします。

新しい発見は過去にある

 出発点を振り返る。

 あなた個人の行跡をたどるのも有意義ですが、あなたの職業にかかわる分野を俯瞰して、歴史を掘り起こす作業も資するものは大きいはずです。

 わたしにとっては、過去の作家の作品を読むことが、それにあたります。

 温故知新という言葉がありますが、どんな分野でもその礎たるスタンダードがあり、それを知ることで、なにが新しいのか、未開拓の地はどこにありそうなのか、その手がかりを得られます。

 あなたが身を置く業界の歴史を振り返ることは、鉱脈を探り当てるための営みになるわけです。ひも解けばもちろん、ポジティブな事柄だけではなくて、社会的災害に関与していたとか、大きな不祥事を働いていたとか、負の側面も見えてくるでしょう。

 それら一切合財を含めて知ることに大きな意味があります。

 あなたの職業は、すでにだれかがやっていることです。たとえ業種として新奇なものだとしてもルーツは必ず存在し、過去の遺産のうえに成り立っています。なにもないところから、なにかが生まれることはありえない。

 わたしがまったく新しい小説を書いたといくら自負してみたところで、日本語の歴史的体系を利用しているのは揺るがない事実ですから、先達の営みを手本にしていることになります。

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「逃げる」は負けではない。自分を取り戻す究極の手立てだ。孤高の芥川賞作家、窮地からの人生論。

この連載について

初回を読む
孤独論~逃げよ、生きよ~

田中慎弥

仕事、学業、人間関係、因習、しがらみなどによって、現代を生きる多くの人は「奴隷」になっている。「奴隷」とは有形無形の外圧によって思考停止に立たされた人のこと。あなたは大丈夫だろうか。自分の人生を失ってはいないだろうか。もし苦しい毎日を...もっと読む

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コメント

shumihey___ 毎回良いこと言ってるなぁと思うけど この文を読んでこの通りに行動する前に 自分の場合、人と関わることを単にめんどくさがっているんじゃないかと自問自答 2年以上前 replyretweetfavorite