自分はまだ好きを始めたくないけど相手には早く好きになって欲しい

なんだか良い雰囲気の関係が始まりそうだったのに、突然のハプニングでお尻を見られてしまった百鳥ユウカさん(34)。好感を持っているのに、まだ好きになりたくない微妙なオトメ心を百鳥ユウカさん(34)が赤裸々に語ります。

ユウカは怒っていた。

「もう……なんで、お尻をみせる羽目になっちゃうのよ!」

ユウカは持って行き場のないもやもやした思いを、ベッドの上に脱いだばかりの赤いチェックのスカートを放りぶつけている。

「も〜〜〜うっ」

いまは自分の部屋だからパンツ姿になってるけど、初対面の男性にお尻の穴を見られるなんてありえない。婚活の場面では「清楚な女性ですね」と言われるし、お店では「あら、ユウカちゃん、ほんとにピンクのドンペリが似合うわね」とママに褒められているのに……。

高畑はどう思ったんだろう?

「ごめんね」とか……大人だったら、もっと上手くフォローできるでしょ? 獣医なんて動物ばっかり相手してるから、女の気持ちわかんないのよ! ていうか、なんで私を歩いて帰らせてるのよ。男だったら無理やりでも車に押し込めればいいじゃない。

言ってることの9割がむちゃくちゃであることを本人も気づいているのに、愚痴なのか本音なのか止まらない。さんざんそれが頭の中をぐるぐるした後に、ユウカは疲れた体をベッドに横たえてつぶやいた。

「はぁ……、私が歩いて帰るって言ったんだからしょうがないか……」

「ユウカ〜、いるのぉ? ジョンはそっちにいるの?」

玄関の扉が開いた音がして誰かが入って来る気配がした。アキが帰ってきたっぽい。

時計の針は午後5時すぎを指していた。ユウカはアキに「ジョンのこと」を話さなくては、と重い体と心のままのそのそと階段を降りた。

「ユウカ、ジョンと一緒にいたんじゃないの?」

「アキさん。実は、ジョンなんだけど、いま病院にあずかってもらってるの……」

「えっ!? ジョンに何があったの!?」

アキの目が大きくなる。普段はあまり可愛がってるようには見えないのだが、こういうときはアキも驚く。

「いや、今日獣医さんが回診に来る日だったでしょ?」

なんとなく、"高畑"という名前を口にすることにユウカは抵抗があった。

「あ、忘れてた。今日は月に1度の回診日か。それでジョンに異変が?」

「うん、ジョンのフンに血が混じってて、検査するために病院に行ったの」

「ユウカも一緒に?」

「うん。でも検査結果はすぐには出ないから、結果がでるまで病院で預かってくれるって。手術の必要があったら、ここへ連絡をいれてくれるって……」

「ふう。とりあえずは安心したわ。高畑さんに任せておけばきっと大丈夫ね。私がボランティア村に行ったときもジョンは高畑さんに預かってもらってたのよ」

「……そうなんだ」

ユウカはどんな反応をしてよいのかわからず、そっけなく答えた。

「ユウカも疲れたでしょう? とりあえずお茶でも入れようか」

「うん」高畑と同じことを言うアキに戸惑う。

アキはキッチンにあるティファールのポットに水を入れると電源を押した。ものの2分で沸点に達するこのティファールはアキのお気に入りだ。アキは引き出しからインスタントコーヒーを取り出しカップにセットした。コーヒーは、あと5分もしないうちに淹れ終わるだろう。

キッチンは格段にこの家の方がゴージャスなのに、珈琲は地味だな、なんてことを不意に思う。
ユウカはさっきからいちいち高畑の家、高畑の行動を思い出していた。

「そうだユウカ、蟹は冷凍してくれてるの?」

「あ、まだ受け取れてないの」

「えーっ」

「だって、ジョンの付添いで病院にいかなくちゃならなかったし。仕方なかったのよ」

「ま、そうね。ジョンに付き添ってくれてありがと。でも竜平さん楽しみにしてるだろうに。まいったな」

「なら、蟹買いにいく?」

「バカね、ふるさと納税した網走からの返礼品の蟹を竜平さんは食べたいのよ。大瀧鮮魚店の蟹がいくら美味しくたって替わりはきかないわ」

アキのいうことは理解ができたけど、そう責めなくったって。なんだか自分のせいだと言われている気がしてあまり気分は良くなかった。

しばらくして、カップはコーヒーに満たされ、ユウカの目の前に差し出される。

「ユウカはミルクいれるのよね」

慣れた手つきでまたミルクがユウカの前に差し出される。

「ううん、今日はいいや」

「あら、どうしたの? 変な人ね?」

高畑の家で出された珈琲はミルクを入れるのが憚れるほど綺麗な黒色をしていた。またあの珈琲を飲めたらな、とユウカは願掛けの思いを込めてブラックで飲んでみた。「にがっ」アキの珈琲は苦い。

「高畑さん何か言ってた?」

アキの言葉に再びドキッとして思わず手元が狂ったが、今度は珈琲はこぼさずに済んだ。

何かって……? まさか、やっぱり?

アキがあの見栄えの良い男を放っておくわけがない。回診は家に来るわけだし、前みたくソファで高畑にまたがって……。

すぐに答えないユウカをみて、アキは声を上げて笑った。

「あはははは」

「ちょ、何ですか」

「私が聞いてるのはジョンの容態のことよ。何か言ってたでしょ。もっと詳しく聞かせてよ」

真っ白なティーカップを両手で包みながらアキは素知らぬ顔でユウカに言った。

「わ、わかってるけど、そんなに詳しいことは私も……」

平静を装おうとしても、動揺が隠せない。特にアキにはすべて見透かされている気持ちになる。

「そう。とりあえずは検査結果を待つことにするわ。ちなみに、高畑さんはたしかフリーよ。バツイチだけどね」

「ちょ、ちょっと、なんのちなみですか。私何も聞いてないじゃないですか!」

「あらそう? 顔に書いてあったから。高畑さんってどんな人だろう~って」

「アキさん!!」

「あはは」

もうっ!

でも……あの人フリーなんだ。たしかに、部屋にはそれらしい様子はなかった。洗濯もクリーニングに全部出してるって言ってたし、奥さんがいるなら確かにそういうことはさせないわよね。

そして、高畑は「結婚していた」という事実。

以前までのユウカなら、「離婚するような相手とすぐ結婚しちゃう浅はかな男」と救いようもない捉え方をしていたが、今のユウカは、少し違う考え方をしていた。

「一生を共にしたいと思える異性を愛した事実。そして相手からも同じように思われていた」ということの方が大事なことだと思うようになっていた。そして、そこまで思っていた人と別れた理由。そこにその人の本性が現れるような気がしていた。どうしても譲れなかった何か。こんな風に考えるようになったのは、お店でいろんな既婚の人、未婚の人、離婚の人、と出会って感じたことだ。他人と一緒に暮らして家族になるとどうしたって相手との違いが浮かび上がる。みんなそれぞれ何かしらこだわりがあるのだ。そんなこだわりの一つずつがその人間の個性を形作っているようにユウカは思うようになっていた。個性がないように見えても滲み出てくるのが個性。

結婚。離婚。

対義語みたいに感じるけど、むしろ原因と結果という言葉の方が近いんじゃないかな、と今では思っていた。

「で、ユウカ……」

「だからアキさん、違いますって! 別に高畑さんのことそんな風に思ってないですから。」

とっさに答えるユウカ。しかしアキからは予測不能な答えが返ってきた。

「いや、蟹、やっぱり今からじゃ間に合わないかしら?」

「へっ?」

「なんかユウカが蟹に見えてきた」

「何ですかそれ。もう、アキさん、竜平さんのせいにして、本当は自分が蟹たべたいだけじゃないですか!」

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結婚できない2.0〜百鳥ユウカの婚活日記〜

菅沙絵

友人たちが彼女につけたあだ名は「レジェンド・ユウカ」。結婚市場に残された最後の掘り出し物という意味だと説明されたが、たぶん揶揄する意味もある。妥協を知らない彼女が最後にどんな男と結婚をするのか、既婚の友人たちは全員興味深げにユウカさん...もっと読む

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コメント

trainer_sapporo とうとうその時が来たのかっ!?東奔西走。ユウカさんの動向。気になるぅ! 4年弱前 replyretweetfavorite

sizukanarudon 菅沙絵@sae20160325 https://t.co/qE0UVRCcNR 「一生を共にしたいと思える異性を愛した事実。そして相手からも同じように思われていた」と… https://t.co/5g3ABLvcxT 4年弱前 replyretweetfavorite