頭じゃなくて肉体で考える

わたしたちはインターネットを通じて日々多くの情報に触れています。それは大いなる恩恵であると同時に、深入りすると翻弄されてしまう、諸刃の剣です。現代人が感じる「生きづらさ」とインターネットには密接な関係がありそうです。
大学受験の失敗を機に、以後十五年間、実家で引きこもり生活を送った田中慎弥さん。そのなかで悟った孤独の効用とは。芥川賞作家が語る、自分を取り戻すための人生論。
書籍『孤独論~逃げよ、生きよ~』を、発売に先駆け特別先行掲載いたします。

肉体に耳を傾けろ

 伝統を重んじる世界にも、電子化の波は押し寄せています。プロの将棋棋士も、いまはコンピュータソフトを使って指し手の研究をするようです。

 出版業界では、かなり前から書籍や雑誌の制作工程における電子化が進み、手書き原稿だろうがなんだろうが、すぐに文字データに変換されて、そこから誌面が構成されていきます。最近では文字全体をトレースして、誤字脱字を自動チェックする機能まで備えているらしい。

 わたし個人が手書きのアナログであろうと、原稿をひとたび渡せば、あとは大いにコンピュータのお世話になっているわけです。どんな仕事のやり方だろうと、どんな生活のスタイルだろうと、携帯電話やスマートフォンを持っていなくても、生きている以上、コンピュータとのかかわりができる。これは世の中の仕組みがそうなっているので、好悪の立ち入る余地はない。

 若い世代は、生まれたときからインターネットが整い、電子機器に囲まれた環境で育っています。彼らがコンピュータに触れながら成長したあかつきには、非常に刺激的で新しいなにかが生み出されるでしょう。

 それはそれでいいことですし、なによりも彼らに身体性がしっかり伴えば、すばらしいことだと思います。

 電子化がさらに飛躍的な進歩を遂げて、日常のあらゆる場面がいっそう便利に効率的になったとして、それこそ楽しい刺激に満ち溢れたとして、であればなおのこと、気を引き締めたい。生きている以上はこの肉体が生きているのだという事実に謙虚でありたい。

 肉体は頭よりも正直です。

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「逃げる」は負けではない。自分を取り戻す究極の手立てだ。孤高の芥川賞作家、窮地からの人生論。

この連載について

初回を読む
孤独論~逃げよ、生きよ~

田中慎弥

仕事、学業、人間関係、因習、しがらみなどによって、現代を生きる多くの人は「奴隷」になっている。「奴隷」とは有形無形の外圧によって思考停止に立たされた人のこと。あなたは大丈夫だろうか。自分の人生を失ってはいないだろうか。もし苦しい毎日を...もっと読む

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コメント

moe_sugano わたしも自炊派なので、すごいよくわかる。> 2年以上前 replyretweetfavorite

bookricefield 「書くという行為になる。いわゆる力仕事には見えないかもしれませんが、これが、本当に体力を要するのです。やりたいこと、やるべきことを好きなだけやるためには、体力を養って維持すること。地味ですが、これはきわめて重要なポイントです。」 https://t.co/pJRzs218hu 2年以上前 replyretweetfavorite

slowwork_nuu 「料理を作れ」シンプルな訴えだがその通りだ @ 2年以上前 replyretweetfavorite

igu3 田中慎弥さん、渋くなって凄みが増してる感 2年以上前 replyretweetfavorite