洋楽に憧れない世代の登場
昭和から平成にかけて歌謡曲やJ-POPを支えてきたその他の作曲家、プロデューサー、アーティストたちも、そのほとんどが、やはり海外の音楽シーンの動きに大きな刺激を受けてきた人たちだった。
中村八大も、筒美京平も、桑田佳祐も、山下達郎も、小室哲哉も、いずれもそれぞれの時代の「洋楽」に憧れ、それを素養に育ち、そこからの影響を日本独自のものに翻案してきた音楽家だった。
こうして日本のポピュラー音楽と「洋楽」との関係性の歴史を見ていくと、この章の冒頭で引用した「全然洋楽の影響を受けてないアーティスト、ユニットが多いんです」というマーティ・フリードマンの指摘が、より大きな意味を持って浮かび上がってくる。
00年代、10年代以降は、J-POPを聴いて育ち、洋楽にはほとんど触れず、日本のロックやポップスのみに影響を受けて自らの音楽を生み出すタイプの作り手が増えている。
いきものがかりの水野良樹はその代表だ。やはり洋楽に憧れて育ったドリームズ・カム・トゥルーの中村正人との対談でもその対照的なスタンスが明らかにされている。
水野 洋楽はほとんど聴いてないんですよ。一番音楽に接しやすい時期……中学高校の多感な時期がちょうどCDバブルだったんです。だからJ-POPのヒットチャートがふんだんにあって。
中村 あの頃はよかったなあ(笑)。
水野 あはは(笑)。だからたぶん僕らより少し上の世代になるとJ-POP以外の音楽にも触れていると思うんですけど、僕はJ-POPをむさぼるように聴いていました。それをそのまま出してるっていうのがいきものがかりのスタンスですね。(音楽ナタリー「カバーアルバム発売記念 中村正人(DREAMS COME TRUE)×水野良樹(いきものがかり)対談」2014年3月26日更新)
もちろん、海外シーンの潮流にアンテナを張り、そこから刺激や影響を受けて自らの音楽を生み出すタイプのアーティストはいまだに多い。
が、水野良樹だけでなく、日本のロックやポップスのみを聴いて育ち「洋楽のいいところを抽出して落とし込む」という発想を持たないミュージシャンは明らかに増えている。
それは20代のアーティストに10年以上取材を続けてきた筆者の紛うことなき実感でもある。
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