注1:宇山日出臣(1944~2006)講談社の文芸編集者。綾辻行人らをデビューさせ「新本格」ムーブメントを作り上げ、メフィスト賞を創設、ミステリーランドを企画するなどミステリー界に多くの影響を残した。
注2:酒井駒子(1966~) 海外でも高い評価を受ける絵本作家。代表作は『よるくま』『赤い蝋燭と人魚』『きつねのかみさま』『くまとやまねこ』『金曜日の砂糖ちゃん』『ぼく おかあさんのこと…』『ゆきがやんだら』など多数。
読む順番は『七月に流れる花』から
—— 今回『七月に流れる花』と『八月は冷たい城』の2冊にわかれていますが、はじめから2冊にするというのは決まっていたのでしょうか?
恩田陸(以下、恩田) はい、決まっていました。男の子バージョンと女の子バージョンにするということも決めていて、同時並行で違う事件が起きる話を考えていました。
—— どちらから先に読めばいいのかわからないという声をネット上でいくつか見かけたのですが。
恩田 『七月~』から先に読んで欲しいですね。
—— ホンシェルジュでも『七月~』から!というのは念を押しておきます(笑)。
恩田 是非(笑)。強く伝えていただけるとありがたいです。
—— 今回の作品は、ダークな部分に、少しロアルド・ダール(注3)の雰囲気を感じたのですが、何かのオマージュということはあるのでしょうか?
恩田 特には考えていなかったですね。でも言われてみると、たしかに私はロアルド・ダールの児童文学が大好きなんです。『おばけ桃の冒険』とか『チョコレート工場の秘密』とか。やっぱり、どこかに影響は受けているだろうと思います。ロアルド・ダールの物語も結構シビアというか、ものすごく残酷なところと笑えるところがありますよね。
注3:ロアルド・ダール(1916~1990) イギリスの小説家、脚本家。『チョコレート工場の秘密』などの児童文学から『あなたに似た人』などの大人向けの短編集まで幅広い年代に向けた作品を発表した。
—— 恩田さんの作品は、『チョコレートコスモス』のように他の作品から影響を受けたものと、『夜のピクニック』のように自分の体験から書かれたものがあると思うのですが、今回の作品は小学生の頃転校が多かったという恩田さんの経験が反映された、どちらかというとオマージュというよりは体験から出てきたお話なのでしょうか?
恩田 転校していた時の体験は、色濃く出ていますね。子どもにとって転校は大きな体験なので、その時の新しい場所に最初はなじめない不安な気持ちは覚えのあるものです。
—— 何かひとつのアイデアや特定のシーンから作品の構想を練られていくといったことを以前書かれていたと思うのですが、今回では、そのようなシーンはどこになりますか?
恩田 電車からぱっと降りて畑の中をずっと歩いて行く、というイメージは、最初からありましたね。駅じゃないところで電車が急に止まって……子どもの頃、そうした風景を見た記憶が印象に残っているんです。なぜかはわからないのですが。
ローカル線って、時々変なところに止まるじゃないですか、その時は富山だったかな、いきなり何もないのに、ずっと電車が止まってしまって。でも扉は開いていて、外を見ると田んぼだった、という景色をすごく覚えていて。
—— 「みどりおとこ」(注4)など象徴的なモチーフが出てきますが、はじめから正体などを考えて書かれたのでしょうか?
恩田 いいえ、書きながら考えていったように思います。書きはじめた当初から、「みどりおとこ」について、「この人はいったい何なんだ?」ということをずっと考えていました。『七月~』から先に書いていたのですが、本当にちゃんと世界設定が見えるようになったのは、『七月〜』の終わりくらいですね。
『八月~』を書き終えて、「みどりおとこ」は何なのかがようやくわかりました。書きながら考える、という執筆スタイルは普段から多いのですが、この作品もそうでしたね。自分でも最初のシーンは、ここはどういう世界なのかわからなかったので、探りながら書いていました。
注4:みどりおとこ 『七月に流れる花』『八月は冷たい城』の鍵となる人物。髪も顔も手も足も緑色。恩田さんが2007年に発表した短編集『朝日のようにさわやかに』に収録された「淋しいお城」にも登場する。
—— わからないまま書くのは、怖くないですか?
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