エアコンの普及が肥満につながった?
石川善樹(以下、石川) 以前、加藤さんたちと『最後のダイエット』という本をつくりましたよね。
—— はい。cakesでも内容を連載しました。編集を担当したから言うわけではないですが、すごくいい内容ですよね(笑)。
石川 はい。当時のダイエット研究の集大成で、僕としても自信を持っておすすめできる内容です。でもそれからさらにダイエットの研究を続けているうちに、本当に「最後」だったのか? という疑問がわいてきてですね(笑)。
—— え(笑)。
石川 もし、『最後のダイエット 2』があったらこんな内容にしたい、ということをお話しします(笑)。
—— 「最後」のはずだったのに「2」ですか(笑)。では、おねがいします。
石川 まず、『最後のダイエット』のおさらいの話からはじめます。ダイエットって、目標体重になったら成功かというと、そうじゃないんですよね。ほとんどの人は、「夏に向けて痩せたい」と思って春からダイエットを始め、夏にいったん痩せるものの、秋から冬にかけてまた食生活がもとに戻ってリバウンドして、年末年始をはさんでさらに太ります。で、また春になってダイエットを始めて……と繰り返しているうちに、なんと、どんどん体重が増えていくんですよ。
—— 食事制限で痩せると筋肉が減るから、基礎代謝が下がって、ダイエット前と同じ食事をとっていても、体重が増えてしまう、という話でした。
石川 そう、だからダイエットをすればするほど太る、という恐ろしい悪循環に陥ってしまうんです。
そもそも、なぜ人は太るのか。これはいろいろな要因がありすぎて、一つには絞れないんですよね。これがダイエット研究の難しいところで。たとえば、エアコンの普及が体重増加につながった、という話もあるんです。
—— ほう。どういうことですか?
石川 イギリスの研究で、冬の各家庭の室内温度を調べたものがあります。そうすると、1980年には冬の夜の室内温度は18度台だったのが、2010年には20度まで上がっていることがわかるんです。
—— エアコンが普及したから、暖かくなったんですね。
石川 そうです。そして、室内温度が上昇すると、体重増加につながることがわかってきました。
—— え。なんでだろう。……もしかすると、体の代謝が落ちるから?
石川 そうです。気温が低いと、人は生命を維持するために基礎代謝を上げるんですよね。体の温度を上げようとする。逆に、部屋があたたかいと、脂肪を燃焼して体の温度を上げる必要がない。だから、食べている量が一緒でも、部屋の温度が高いと燃焼しにくくなるという仮説があるんです。それに基づいて、室内温度の上昇はどれくらいの体重増加につながるか調べたところ、こんな結果がでました。
出典: Indoor Built Environ 2013;22;2:360–375.
—— ベッドルーム、影響大きいですね。
石川 人は家にいる時間のかなり大きな割合を、じつはベッドルームで過ごしていますから。この推定からいくと、室内が寒かったころに比べて、平均して1年に2キロ増えることになります。このように、思わぬことが原因で我々が太っている可能性があるんです。
—— 痩せようと思って、家の温度下げようとは思わないですね。たしかに太る原因がたくさんあると、どういう対策をすればいいか決めづらい。
石川 そして、ダイエットにおける究極の未解決問題はなにかというと、「痩せたままでいる」ことなんです。これは、『最後のダイエット』における発見でもありました。現代の日本人に「何キロ痩せたいですか?」と聞くと、だいたい2、3キロと答えるんです。2、3キロ痩せるのは、じつは簡単。でも、痩せた「まま」でいるのは困難です。だから2、3キロ痩せたままでいる方法を見つけるために、僕はいろいろな研究をしてきました。
ダイエットは「習慣」になれば成功する。しかし……?
—— 『最後のダイエット』では、シミュレーターで1日どれくらいのカロリーをカットすればいいかを算出しましたよね。
石川 そう。身長や体重、日常の運動量などを入力して、自動的に基礎代謝と1日の平均摂取カロリーを出し、目標体重と照らし合わせて、カットすべきカロリー量を出していました。
—— 算出するのが、とても大変だったと聞きました。
石川 はい。さまざまな条件を加えた連立微分方程式を立てて、それを半年かけて解きました。とはいえ、結果はシンプルで、痩せるためには、基本的には摂取するカロリーを制限するということに尽きるんです。その式で「その減らすべきカロリー量は、あなたの場合はいくらです」というところまでは、提案できた。でも、「どうしたら、挫折せずにカロリーを抑えられるか」ということについての画期的なアイデアは、まだなかったんです。
—— ふむ。普通に考えると、食事を制限するか、運動量を増やすかの二択ですよね。最後のダイエットには、それを習慣化するための方法が、いろいろ書かれていました。
石川 そうですね。そして、太っちゃう人というのは、基本的に食べるのが好きなんですよ。だから、痩せる時は食事制限をするけれど、キープするときは食事の量は元に戻すという前提で考えないといけない、と思いました。ずっと何かを我慢し続けるのは、つらいでしょう。
—— そうですよね。
石川 体重とか年齢にもよるんですが、大雑把に言うと、1キロ減らしたままでいるためには、1日に消費するカロリーを、減らした前よりも43キロカロリーだけ減らせばいいんです。2キロ減らしたままでいるためには、約80キロカロリーですね。マイナス43キロカロリーって、クッキー1枚分くらいです。
—— 思ったよりも、少ないですね。それなら減らせそうですけど。
石川 運動でいえば、普段の生活からプラス20分歩く程度です。食事で摂取するカロリーを前と同じにするなら、それくらいの運動をしないといけない。しかも、習慣化するなら家でできることじゃないと。
—— わざわざジムに行ったりするのは大変ですよね。食事のほうがかんたんそうですけど、それが難しいんですよね。
何度も失敗している人が、ついに痩せられた!
石川 そう、それで、雑誌のダイエットモニターの方に僕の提案を実行してもらって、本当に痩せたままでいられるか検証してもらったんです。この方は、ダイエット企画があるたびに参加されていて、いったんは痩せるものの、また不死鳥のように復活してダイエット企画に参加するという、ダイエット界のフェニックスだったんですよ(笑)。
—— なんですか、その称号(笑)。
石川 習慣化するために、まずこの方の1日のスケジュールを教えてもらいました。そうしたら、7時に起きて、10時から散歩やエアロバイクを1時間すると言うんです。
—— おお、いいじゃないですか。
石川 「どのくらいの頻度ですか?」と聞いたら、「2、3ヶ月に1回はやります」と(笑)。つまり、全然習慣になっていなかったんですよ。そして、11時から英単語を覚える時間をとっている。これは毎日やっているそうです。そして、12時に昼食、15時におやつ、19時に夕食を食べる。24時からはライターの仕事をしながら間食して、夜中の2時に寝るというスケジュールでした。
—— 5時間しか寝られないんですね。
石川 そう、それも問題でした。ダイエットはまず、生活リズムを整えることが必要なんです。そこで、朝食をしっかり食べてもらうようにしました。人が目覚めるスイッチは、光を浴びることとお腹にものがはいることの2つがあるんですよ。朝食を食べるようにしたら、2つのスイッチが同時にパチっと入るようになった。その結果どうなったかというと、彼女は夜遅くまで起きていられなくなったそうです。午前中からしっかり活動して、夜は眠くなって寝る。それで、夜の間食もなくなりました。さらに、運動もしてもらいました。エアロバイクを漕いでもらったんです。
—— それは、どうやって習慣にしたんですか?
石川 英単語をエアロバイクの上で覚えてください、とお願いしました。ただ、「漕がなくてもいいですよ」と伝えたんです。でも、そう言うと、人は漕ぎたくなるんですよね(笑)。それでけっきょく、英単語を覚えたあとでエアロバイクをやったり、覚えながら漕いだりして、運動習慣をつけることができた。そして彼女は、2、3キロ痩せた状態をキープできるようになったんです。
—— すばらしい!
石川 『最後のダイエット』でやってほしかったのは、こういうことなんです。まずは、睡眠や食事間隔などの生活リズムを整える。そして、既存の習慣に紐付ける。でもね、よく考えたらこれはそうとう難しいなと。
—— えー!(笑)
石川 つまりこれって、個別に対策する必要があるんですよね。この方は、英単語を覚えるという習慣があったり、家にエアロバイクがあったりしたからうまくいきましたけど、みんながみんな、そんな条件が揃っているわけではない。僕が痩せたい人全員の生活スケジュールを見て提案できればいいですけど、それもできません。新しく運動習慣をつくるって、相当ハードルが高いんです。というわけで、けっきょく食事制限だなと。
—— 基本に立ち戻って。
石川 そしてたどり着いたのが「舌痩せ」なんです。
—— 「舌痩せ」……? 何やらあやしい響きですね。
次回「舌を『洗濯』すれば、無理なく痩せられる!?」は3/2更新予定
構成:崎谷実穂
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