あなたの言葉に立ち止まる—『ニッポンのジレンマ』出演のジレンマ〈後編〉

2017年の元旦の夜に放送された、「ニッポンのジレンマ」元日スペシャル。40歳以下の12人の専門家が集って、議論を交わす番組です。〈臆病な詩人〉の文月悠光さんは、そんなテレビ番組で何を話したのでしょうか。前編に引き続いて、出演中に朗読をした石原吉郎の詩について、その背景を辿りながら、意見の違う人の言葉に耳を傾ける意味を噛み締めます。

〈臆病な詩人〉こと私のもとへ、突如舞い込んだ「ニッポンのジレンマ」元日スペシャル出演の話。討論番組に出るのは人生初。出演者の多くは政治や社会問題にくわしい専門家だ。素人の私が口を挟める場面なんてあるの? 議論の内容を理解すらできずに、ポカンとしてしまったらどうしよう……。緊張と心細さで、収録前日は3時間しか眠れなかった。

 NHK最大規模のスタジオに入ると、真っ白なライトが眩しく、緊張した身体がさらに熱を持った。天井が高いため、自分がすごくちっぽけな存在に思えてくる。普段は履かないハイヒール、歩き方がおかしかったらどうしよう。不安でつい背中が丸くなる。その様子まで背後からカメラで撮られていた。

 MCの古市憲寿さんらの前で、11人の論客が半円形のテーブルにつく。最年少の私は右端の席。出演者はもちろん、収録を見守る200名のオーディエンスの様子もよく見えた。


「『ニッポンのジレンマ』という番組は、ディベートじゃなくて、ダイアローグなんです」

 収録は、批評家・大澤聡さんのこの言葉から始まった。なるほど。それぞれの意見が固定された討論(ディベート)とは異なり、ここでは対話(ダイアローグ)を経て、意見が変わってもOK、むしろ変わることが大事らしい。

 そして大澤さんの宣言通り、6時間の収録で起きたことは、「討論」ではなく、「対話劇」であった。十二人の異なる分野の人々が集まれば、生まれるのは混沌とした対話空間。話はこんがらがり、決してわかりやすい方向には転がらない。「こっちが正しいですよ」と誘導してくれる人もいない。
 けれど、それぞれが見た現実を包み隠さず語り合ったとき、複雑で豊かな世界の在りようが見えてきた気がした。自分が織りかけた布を、誰かが引き継ぎ、新たな模様を織り上げていく—議論は言葉でできた美しい織物のようだった。

普段気に留めていなかった言葉たち

 収録の2日前、メールで送られてきた進行台本を見て、私は青ざめた。議論のキーワードとして挙げられている言葉は、どれも私に馴染みのないものばかりだった。

 番組テーマは「Post Truthの逆襲 未来は明るいか?」。EU離脱、アメリカ大統領選から見えてきたのは、客観的な事実よりも、感情が重視されがちな「ポスト真実」の時代像。果たして、分断が進む日本の未来は明るいか? ……そんな趣旨らしい。うむ、どうやらたぶんそうらしい……。

 白状すると、打ち合わせで番組の概要を聞くまで、私は「Post Truth」という言葉を知らなかった。帰宅後にググり、関連資料を読み、ようやく「世界はこんな状況に置かれているのか」と飲み込めた。とっつきにくい横文字の言葉も、身近な現象に繋がっているようだ。まるで暗号を解くような気持ちで、私は普段気に留めていなかった言葉たちを手繰り寄せた。

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臆病な詩人、街へ出る。

文月悠光

〈16歳で現代詩手帖賞を受賞〉〈高校3年で中原中也賞最年少受賞〉〈丸山豊記念現代詩賞を最年少受賞〉。かつて早熟の天才と騒がれた詩人・文月悠光さん。あの華やかな栄冠の日々から、早8年の月日が過ぎました。東京の大学に進学したものの、就職活...もっと読む

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コメント

tesuidatomoketa そうそう。 https://t.co/gcpBRjzlxR 11ヶ月前 replyretweetfavorite

SasakiTakahiro 今の社会の色んな場所に当てはまる。 11ヶ月前 replyretweetfavorite

nama_tsuyama 文月悠光さんが「ニッポンのジレンマ」に出演したことのブログ、その後編。詩人の存在意義、議論の意義など様々なことについて述べている。 https://t.co/nxQj0Odl1B 11ヶ月前 replyretweetfavorite

luna_yumi 今日更新のcakes(https://t.co/zg0UzvsegY)で描いたドバイの労働者たちのエピソードは、以前「幻冬舎plus」の連載で詳しく書いたよ🌠 現地の写真がすごく美しいから見てほしい!🙏 ▶︎詩人、労働と祈りの町へ https://t.co/nMuE2yRwqF 11ヶ月前 replyretweetfavorite