「おじゃまします」
ドアを閉め礼儀正しく頭をさげた高畑と名乗る男は、上下白いトレーナーを着て、青いブルゾンを羽織っていた。
ユウカは、楽しみにドアを開けたのだが、よくよく見たら隆二にはあまり似ていなかった。
(なんだか日常にドラマがなさすぎて、どんな男でも元彼にみえちゃうなんて、ほんと重症だわ)
「ジョンくんの様子はどうですか?」
高畑は事務的にユウカに話しかけてきた。高畑という男はさっき回診と言っていたから、獣医か何かなんだろうか。アキからは特に聞いていないが、男の慣れた様子に自然とユウカも安心して応対できた。
「ジョンは、ずっとベッドで寝ていますよ」
「今日、アキさんは?」
「あの……ふるさと納税? いや、違うわ。えーと、なんか用があるって外出しちゃいました」
「そうですか。ちょっと、ジョンくんの様子を見させてもらってもいいですかね」
「あ、はい」
高畑は黒い大きなカバンを抱えて、玄関脇のリビングの入り口からジョンのベッドまで入ってくる。もう何度も家にきているようで、家の構造も作りも理解しているようだ。
(ユウカは家の構造を覚えるまでに1ヶ月くらいかかったけど)
ジョンはアキが出かけてからずっとベッドの上で寝ていた。もう15歳を超える老犬で、竜平さんが外国で買ってきた犬だそうだが、最近はあまり外に出ることも少なくて、家の中で寝ていることの方が多い。
ユウカが初めてこの家にやってきたとき、飛びついてきたけど、あれくらい元気な日はこの冬に入って、数えるほどだ。
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