失われていく「ハダカ」の価値【ストリップ劇場】

数々の街歩き取材を重ねてきた、ライター兼編集者のフリート横田氏。2020年の大イベントを前に、東京の街が大きな変貌を遂げつつあることを肌で感じているといいます。その危機感から、今ならまだ間に合う、今しか会えない、懐かしい東京の風景を伝えるべく、全10回の連載がスタート!
記念すべき1回目は、昭和の男のロマンがつまった(!?) ストリップ劇場の「今」について、です。


入り口脇で受付をしている元踊り子・ケイコさんは「昔は引退興行で1万円札で作ったレイをかけてもらったお姉さんもいるわよ」と、バブル期の様子を語ってくれた。

「ここのエゲツなくないところが好きでね。今日は2回転(2ステージ)観ていくよ」と50代の客が言う。40代の客はこう言う。「前は仙台にも広島にも贔屓(ひいき)の踊り子さんを追いかけていったけど、もう劇場がないんだよ。今日は3ステージ観て新幹線で帰る」。また別の50代の客。「ハダカがいまは安くなったからね、ネットでタダで見られるんだから。前は2日に1回来たけど、最近来るのは減っちゃったな」。

新宿歌舞伎町にある〈TSミュージック〉の喫煙所で、身ぎれいな常連客たちは紳士的に、けれどざっくばらんにこの劇場の話をしながら、全国的には減少していっているストリップ劇場の現在(いま)も教えてくれた。ただ、手元にある17年ほど前の資料によると、都内には当時9館の劇場が残っていたことがわかるが、現在も7館が健在であり、都内ではまだまだファン層の厚い娯楽であるといっていい。

現在の新宿マルイ本館の場所にあった帝都座で、昭和22年に行われた「額縁ショー」(額の形に作った枠のなかに裸の女性が立ち、客は幕が落ちる一瞬だけそれを見るというだいぶ穏健なもの)がはじまりといわれるストリップは、その後ヌードショーとなっていったわけだが、しだいに過激化して、昭和40年代後半には、選ばれた客が舞台に上がって……という最終形ともいえるところまで到達した。これを主に行っていたのが、大阪の「OS」という流派の劇場で、対して東京では専属ダンサーがヌードショーを行うのみの「TS」派が主流であった。したがってこの劇場は後者の流れをくむということだろう。

メイク中の浅葱さん。曲と構成は自ら考える踊り子さんが多く、振付は劇場専属の振付師が担当することが多い。

20分間のヌードショーは 舞台上の物語。

〈TSミュージック〉は、昭和52年創業のストリップ劇場である。「20年くらい来てるお客さんもいるよ。昔は1日300人来てたし、いまも毎日70~80人は来るよ」と社長の岡野健太郎さんも言うから、この劇場のファン層も厚く、やっぱりまだまだストリップの熱はあるのだ、と、そんな話をしていたらもう開演時間。

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……扉が閉じる。しばらくすると大音量で音楽が流れだし、紫色の照明の下、白いドレスをひらめかせて登場した踊り子の浅葱(あさぎ)アゲハさん。可憐な舞がはじまる……と思いきや、纏(まと)う衣装をひらりと外すうち、しだいにアクロバティックな動きに変化し、舞台中央から垂らした白布に自らの体を巻き付け、宙吊りになってくるりくるりと回り出す。見守る約40人の客たちは軽く手拍子を打ちながら静かにそれを見つめている。白昼、おじさんたちの80の目玉は、女体の、ある数か所を射貫(いぬ)くように見つめるというよりは、舞台上の踊り子さんの舞と、それが作り出す物語全体を鑑賞しているよう。1ステージ約20分、あっという間だ。構成がよく練られているからかもしれない。演目によっては泣けるものまであるという。


1ステージ観た後、「30年くらい前は踊り子さんがアイドル化して、そのあとはAV女優の転身がブームになって、いまは……一くくりにできないくらい、お客さんの好みがかなり細分化してるよね」と、岡野社長にストリップ史を教えてもらう。

こうして日々客たちの熱気に支えられている〈TSミュージック〉だが、建物所有者との契約の問題で、平成29年1月末日、ファンたちに惜しまれながらも幕を下ろすこととなった。「劇場は、お客さんと一緒に〈生〉のステージを作る〈社交場〉。こういうところはもう作れないのに」。踊り終えた浅葱さんは、そう教えてくれた。歌舞伎町の一つのランドマークが消え、また街は変わっていく。


歌舞伎町ではよく知られた存在である。新宿区役所裏手のビルの2階に劇場はある。

歌舞伎町は きれいになったの? もっときれいになっていくの?

平成15年の歌舞伎町浄化作戦以後、違法店の摘発などで一定の効果が上がって街がきれいになったと言う人もいるし、人の欲望には変わりがないのだから、摘発を逃れたものが地下に潜っただけで、本質的に何も変わっていないと言う人もいる。いやむしろ悪くなったと言う人もいる。そのあたりはわからないが、肌感覚で言えば、コマ劇場が解体され、跡地にシネコンができた頃から、あまり歌舞伎町に足が向かなくなった。緑がまぶしい青山あたりのカフェで打ち合わせなどしているときにふと、ああ歌舞伎町のどこかの路地に紛れ込んで、夜の空気を胸いっぱいに吸い込みたいな、と思ったものだったが……。
 これからも街の様子は変わり続けるだろうが、清すぎず、ほどほどにエゲツない歌舞伎町であってほしい。

※書籍より抜粋(一部変更している箇所があります)。内容には、現在の常識からみてふさわしくない語句等も含まれることがありますが、発言者に差別意識がないことから、歴史的表現としてあえて改変せずに表記しています。
※画像に一部修正を加えてあります。


2020年五輪の話題が「光」なら、消えゆく昭和の風景は「翳」。まぶしい光でなく翳にこそ惹かれる、そんな人々に向けた渾身の一書!

この連載について

東京ノスタルジック百景 シーズン2 ~今見ておきたい昭和の風景

フリート横田

ライター兼編集者として、数々の街歩き取材を重ねてきたフリート横田氏。著書『東京ノスタルジック百景』からのcakes連載が好評を博し、満を持して書き下ろしの連載がスタート。2020年の大イベントを控え、急激に変化しつつある東京。まだわず...もっと読む

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