洋楽コンプレックスがなくなった
ここまでは、CD、ヒットチャート、テレビ、ライブという切り口から、10年代の日本のポピュラー音楽のあり方を探ってきた。ヒット曲はどのように生まれ、消費されるようになっていったのか。そういう「枠組み」の話を進めてきた。
では、肝心の音楽の「中身」はどう変わってきたのだろうか?
この章ではヒット曲の音楽性についての話を進めたい。「J-POP」という言葉が示す、現在の日本のポピュラー音楽の内実の変化について語っていきたい。
大きなポイントとなるのは海外との関係性だ。つまり洋楽との距離感である。音楽の作り手や聴き手が、海外のポップ・ミュージックとの関係性をどのようにイメージしてきたか。00年代以降のJ-POPの潮流の変化は、そこから読み解くことができる。
(PHOTO: Getty Images)
まず最初に言えるのは、「純国産」のロックやポップスが増えたということ。
海外の音楽シーンに憧れ、その流行を日本に翻案するようなタイプではなく、自らが聴いて育った日本のロックやポップスをルーツに、それを発展させてオリジナリティを発揮するタイプのミュージシャンが登場するようになった。
若い世代の音楽の作り手や聴き手の中には、洋楽に対するコンプレックスを持たない人たちが明らかに増えている。
ヘヴィメタル・バンド「メガデス」の元ギタリストで、現在は東京に拠点を置いて活動するマーティ・フリードマンも、その変化を指摘する一人だ。
全然洋楽の影響を受けてないアーティスト、ユニットが多いんです。たとえば、いきものがかりは、メロディのセンスとかが、どこからみても日本の味ですね。アメリカの音楽に影響されずに、作っている人の両親が聴いた歌謡曲が遺伝し、消化されて日本的な現代なものを作っていると思いますね。昔、日本の音楽業界がもっていた洋楽コンプレックスが、いまはまったくなく、作り手も誇りを持って曲作りをしています。それは生み出された音楽のなかに入っていると思うんです。誇るべきですよ! こんなすばらしい音楽業界はないですよ! あえて、ハッピーで。あえて、派手で。あえて、カラフルで。日本の音楽って輝いているんですよ! (GQ JAPAN「マーティ・フリードマンが語るJ-POPの魅力」2012年4月3日更新)
彼は10年代のJ-POPを「技術的にも、センス的にもすごく高いレベルにある」と言う。日本的な曲、日本でしか出せない音が生まれ、その音楽性が発展したと分析する。
音楽プロデューサーの亀田誠治も「J-POP」という言葉を肯定的な意味合いで語る一人だ。
2013年にスタートした番組「亀田音楽専門学校」(NHK Eテレ)は、亀田誠治が校長役をつとめ、ゲスト講師として招かれたミュージシャンと共にヒット曲に込められた技法の秘密を解き明かす番組だ。
番組内で亀田誠治は「J-POPは音楽のあらゆる魅力が詰め込まれた、世界に発信できる素晴らしい総合芸術だと思います」と繰り返し語る。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。