店を持たない、小さな八百屋—「青果ミコト屋」【第24回】

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』の全原稿を火・木の週2回で公開中!第2章では、心地いい暮らしを支える活動を始めている人や企業をご紹介していきます。
今回は、決まった店舗を持たない八百屋「青果ミコト屋」さんのお話です。

店を持たない、小さな八百屋—「青果ミコト屋」

「ゆるゆる」を追い求めている若い八百屋さんがいます。

 店舗をもたず、「ミコト屋号」という古いキャンピングバンに乗りながら全国の農家さんをまわり、あちこちで移動の八百屋さんを友人と二人で開いている鈴木鉄平さん。

 彼は1979年生まれで、大学在学中にアルバイトでお金を貯め、世界を旅しました。ネパールをバックパッカー中に地元のおばあさんからもらった小さな薄紅色のりんごをきっかけに、食に興味を持つようになり、農業研修生などのかたちで畑仕事を学びはじめました。そのまま農業を続ける選択肢もあったのですが、鉄平さんは農業ではなく、八百屋という仕事を選びます。

 農業をしていて市場に野菜を持っていくと、形が悪かったり、少し虫に食われているだけで、値段が5分の1ぐらいに買いたたかれてしまう。無農薬などの農法だと多少は虫がつき、色つやも悪かったりするのが当たり前なのですが、それが市場では認められないということなのですね。だから農家さんも、かたちが良くなかったりすると、収穫もしないで捨ててしまうのです。前に紹介した、ピーチかぶをつくっている千葉の農家田中さんのエピソードと同じですね。

 鉄平さんは、農家さんたちと「なぜ捨てなければならないのか」「捨てないですむ方法はないのか」といったことを何度も話しました。でも最終的にいたった結論は、それは農家のせいでもなく、市場の人たちのせいでもなく、結局は買っている側の消費者の意識の問題なんだと。だから八百屋という流通の仕事をすることによって、そうした形の悪いもの、虫が食っているものでも売れるような場をつくっていきたいと考えたんですね。

 ただ、鉄平さんが気にかかったのは、無農薬のオーガニックな野菜や自然農法の産物を売っているような「自然食」の業界の人たちは、あまりにもスピリチュアルでこだわりが強すぎるように感じられたことでした。ここでもオーガニック原理主義の問題が浮かび上がってきています。

 いっさい農薬も化学肥料も認めないというように、先鋭的に食を求めてしまうと、逆に閉ざされた世界になってしまって、輪が広がっていかない。その外側にいる人たちからは、オーガニックや自然食品という印象には「寄せ付けない」というイメージが少なからずあります。

 実際、鉄平さんが自然栽培の野菜の仕事をするようになると、友人知人などから「じゃあおまえはもう肉食べないんだよね」「コンビニなんか絶対に行かないんでしょう?」と言われるようになりました。反逆クールのエリート主義だと思われてしまったんですね。そのたびに彼は「いや、お肉も食べるしコンビニも行くよ」と答えます。自然栽培の野菜は、さまざまな食の中のひとつの選択にすぎないし、そこにあまりに囚われてしまうのも違うと感じるからです。

 彼は著書『旅する八百屋』(アノニマ・スタジオ)でもこう書いています。

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そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚
アノニマ・スタジオ
2016-11-30

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コメント

oomyori でも生産者のほうは地球環境維持(除草剤で草や微生物を殺さないとか、農薬で関係の無い虫を殺さないとか、過剰なエネルギーを使わないとか)を目的にしてる人が結構いるんじゃないかなってのが最近思うところ。 https://t.co/M9DL7fxVgq 2年弱前 replyretweetfavorite

oomyori うんうん、オーガニック市場の販売者と消費者は安全性や健康的なことを前面に出しすぎて壁を高くしてる気がする。しかも大抵は高価だしね。→「自然食」の業界の人たちは、あまりにもスピリチュアル 2年弱前 replyretweetfavorite

67dendela 自然栽培の野菜は、〝限られた一部の人たちの嗜好品〞という範疇をなかなか超えてくれない。どうしたらこの野菜たちが、もっとぼくたちと同世代の若者にも気軽に楽しめる存在になれるのか? 2年弱前 replyretweetfavorite

SasakiTakahiro 食文化は、料理やレストランの世界の中だけでなく、いろんな外の文化にもつながっている。 2年弱前 replyretweetfavorite