ゆるやかな物語性【第23回】

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』の全原稿を火・木の週2回で公開中!第2章では、心地いい暮らしを支える活動を始めている人や企業をご紹介していきます。
今回は連載全体のキーワードとなっている「ゆるゆる」がなぜ大切なのか、というお話です。「ゆるゆる」と「きちんと」のバランスが絶妙な「Kit Oisix」も注目です。

ゆるやかな物語性

 そう、この「ゆるゆる」ということは、健全な日常の物語にとってとても大切です。

「ゆるゆる」とは、楽しめる日常の物語。わかりやすくて難しくなく、気持ちいいこと。めんどうごとから解放されるということ。物語というものは、つねに過剰になりがちです。目の前の敵と対戦するマンガやゲームがつねにエスカレートし、敵がどんどん強くなっていくように、つねに物語はエスカレートしたがる。そうやってエスカレートした物語は、つねに安易に消費されていく。そうやってエスカレートしていった先が、「反逆クール」というエリート主義の誕生なのです。だから反逆クールはつねに過激な原理主義的になりたがる。添加物やうま味調味料といった人工物を徹底的に忌避するようになり、「無農薬の野菜しか口に入れちゃダメ」「工場でつくられたパンはカビが生えないから怪しい」といった極端な意見に乗せられるようになってしまう。

 物語の過剰さと安易さ、過激さを押しとどめるためには、わたしたちはつねに遊びの部分として「ゆるゆる」を保っておかなければなりません。

 人は食をどうしても過剰に難しく考えてしまいます。前の章で紹介した紫原明子さんのように、子どもに「きちんとしたものを食べさせなきゃ」という義務感を感じてしまう人はとても多いのです。この「きちんと」がどの程度のものなのかを、どう判断するかは人によってまちまちで難しい。

 食に気を遣いすぎると、「オーガニックじゃなきゃダメ」「化学調味料は絶対つかわない」「手を抜いちゃダメ」とどんどん過度に行きすぎてしまい、自縄自縛になって自分で決めたダメが多くなり、日々の料理がまったく楽しくなくなってしまう。「反逆クール」は、自分自身に対する制約がきわめて大きくなり、ほんとうは楽しくないのです。

 家族や恋人や気の合う友人たちと会話しながら、ゆっくりと食を楽しみたい。そのためには、食にまつわるめんどうごとから解放されることも大切なのです。

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そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚
アノニマ・スタジオ
2016-11-30

この連載について

初回を読む
そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚

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コメント

sasakitoshinao 物語というものは、つねに過剰になりがち。目の前の敵と対戦するマンガやゲームがつねにエスカレートし、敵がどんどん強くなっていくように。そうではない「ゆるゆる」の大切さを書きました。 3年以上前 replyretweetfavorite

anonimastudio 忙しいから時短をしたい、でも手抜きはしたくない。両方のバランスが、大切で、かつ難しいところです。 @cakes_news: 3年以上前 replyretweetfavorite