日常の喜びを知る——「くらしのきほん」
戦後間もなくからつづく伝説的な雑誌「暮しの手帖」の編集長を9年間も務められた松浦弥太郎さんは、2015年にインターネット企業のクックパッドに移籍し、「くらしのきほん」というウェブメディアを立ち上げました。
料理や掃除、園芸などの日々の生活の「きほん」が書かれているメディアです。松浦さんは当初、他のウェブのメディアと同じように「衣類」「食事」「住居」といったジャンルに動画や記事を分類し、ジャンルからたどれるような形式を考えていました。しかし「これは自分のやりたいことと違う」と思ったそうです。たとえば自分がぶらりと買い物に出る時に、そこには明白な目的があるわけじゃありません。
その気持ちはときには「今日は暑いからあっさりしたものを食べたいなあ」という漠然とした欲求かもしれないし、あるときには何か心の中に厄介なことを抱えていて、何かを買って気分転換したいだけかもしれない。ぶらっとコンビニに行って、目に入ったあんぱんや炭酸水を買うという行為が、自分にとって癒やしになるということはありますよね。
そういうふわりとした気分やムードが、実は日常にとっての大切な要素になっている。そこに松浦さんは気づいて、メディアの構成を全面的に見直しました。スタートした「くらしのきほん」には、「今日のわたしは。」という文章のあとに「あいする」「すてきなこと」「むきあう」「自分らしく」「なつかしむ」などという気分が並んでいます。「ありがとう」を開くと、中には「手紙を書くように」という見出しの記事があって、いちごが鍋の中に並んでいる写真があります。これはいったい何? と記事をクリックすると、こんなふうに書かれています。
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